持てる男の最強冒険者道 ~モテ方がわからないので魔剣を振り回してみた~

柊遊馬

第1話


「――ヴィゴさーん! ヴィゴ・コンタ・ディーノさーん! いらしたら返事してくださーい!」


 あ、俺が呼ばれている。ここは冒険者ギルドのフロアだ。ギルドの受付嬢の呼び出しだ。

 しがない冒険者……。それが俺だ。ついさっき、所属していたパーティーから除名を言い渡されたので、その手続きのためにギルドにきた。


「ヴィゴさん!」


 あっ、ああ。びっくりした。受付嬢がそこまで来ていた。はい、ここにいます。


「そちらでしたか。居るなら返事してくださらないと」


 すみません。考え事をしておりまして。はい、聞こえてはいたのですが、本当に。


「……」


 受付嬢が俺のことをどうしようもない奴を見る目を向けてくる。明らかにご機嫌斜めなご様子。ここまで露骨な顔をされるのは、相当困った冒険者という扱いなのだが、俺そこまでのことをした?


「……どうぞ。そちらに掛けて、パーティー除名の書類をご記入ください」


 はい。失礼します。俺は専用カウンターの席に座る。受付嬢がじっと俺のことを見ている。相変わらず、好意的ではない目というやつ。


「パーティーリーダーの方の除名申請はお持ちですか?」


 はい、こちらになります。俺は懐から、リーダーであるルース――俺の幼馴染みから預かってきた紙を手渡す。この者、我がパーティーから除名致します、と書かれてサインされているものだ。


「……どうも」


 受け取った受付嬢は、その紙の内容を検めると、俺がサインした書類を回収した。


「はい、受領致しました。Aランク冒険者パーティー『シャイン』からの除名を確認しました。新しいパーティーに加入など、手続きがまた必要でしたら、またのご利用を」


 お手数おかけしました。ありがとうございます。席を立ち、お辞儀をしてカウンターを離れる。

 最後まで受付嬢のどうしようもないものを見る目は変わらなかった。どうも俺は女性からの受けが悪い。……いやわかっている。


 原因は、俺が『一言も』喋らなかったせいだろう。……わかってる。よくないなこれは。でも……仕方ないんだ。俺は、口下手なんだ。特に女性を前にすると。



   ・  ・  ・



「いよぅ、ヴィゴ。お前、パーティーを追放されたってぇ?」

「やあ、クレイ」


 顔見知りの冒険者に冷やかされた。顔つきの悪さに定評のある中堅冒険者のクレイだ。ギルドフロアに面した休憩所兼酒場で、俺が新しい冒険者パーティーの募集を見終わった後である。


「追放とは悪意があるな。除名されたんだよ」

「要するにクビじゃねえか。まあ、元気出せ。お前さんに、あのピカピカパーティーは似合わなかったんだ、仕方ねえよ」


 シャイン、な。


「ピカピカパーティーとか言うなよ。ルーズが怒るぞ」

「お前ねぇ、クビになってもあのキザ野郎を庇うのかよぅ」

「悪い奴じゃないよ」


 俺がパーティーメンバーの女性たちから疎まれて、痴漢だの暴漢だの言いがかりをつけられて責められて波風立っていた時もフォローしてくれたんだ。


「なぁ、ヴィゴ。お前はいい奴だ。体はしっかりしているし、仕事もできる奴だ。お前は冒険者として見れば信用できる」


 クレイが俺の肩を叩く。いつの間にか男連中が集まっていた。そいつらも同意するようにウンウンと頷いている。


「まあ、元気だせよ、兄弟。お前がほんのちょっとでも、女とお話ができたら……また状況も変わったんだろうが」


 おぉ……、と周りの男連中が同情を露わにする。俺も首を横に振る。


「わかってる。俺が異性とまともに喋れないことくらいは。……何とかしたいと思ってる」


 だけど、女性を前にするとどうにも言葉が出なくて。無理に話そうとして、かえって気味悪がられたり、怖がられたり……。ガキの時からそうだったし、たぶん物心ついた時に、何か俺が喋れなくなる事件でもあったんだろう。憶えていないけど……。


「俺もいい歳だし……。いい人見つけて、結婚とか――いや何でもない」


 周りが失笑しているのに気づいた。わかってる。どうせ無理だと思ってるんだろう。


「まあ、飲めよ、ヴィゴ」


 クレイが酒を奢ってくれた。


「本当、いい奴だな、お前は」


 何人かの男冒険者たちと酒を飲む。本当は新しいパーティーに加入して、親交を深めるために飲みたかったけど、そうそう上手くはいかないものだ。特に女性がいるパーティーだと、俺は敬遠されているようでな……。


「――男しかいないパーティーにすればいいじゃないか」

「そっちも、今は人が足りてるってお断りされた」


 タイミングが悪かったかもしれない。また、明日探してみる。


「……どうやったら、モテるようになるのかな」


 つい言葉に出てしまった。周りは笑った。


「そんなもん、オレらも知りたいわ!」

「まずお前は、女の前で喋れるようになれよ」

「ごもっとも」


 俺だって努力はしているんだけどな。上手くコミュニケーションがとれなくてもモテる方法とかないんだろうか?


「それができれば楽だろうけどなぁ。そう都合よくはできていねぇもんだ」


 クレイは言った。飲んでいた戦士風冒険者が口を開いた。


「でもクール気取っている奴とか、やたらモテる奴いないか? 口数が少ないのにさ」

「そういうヤツは顔がイケているか、恐ろしく腕の立つヤツじゃないのか」


 腕の立つヤツ……。


「つまり強くなればいいのか……? Sランク冒険者みたいな?」

「Sランク冒険者! そりゃあなれたら、黙っていても向こうから寄ってくるだろうよ」


 クレイが周りに言えば、男たちは口々に同意した。


「だがSランク冒険者になれるヤツなんて、冒険者数万人の中で一人いるかどうかだぞ」

「滅多に、どころかほとんどいない」

「なれるもんならなりてぇよ、Sランク冒険者」


 男たちは嘆く。冒険者という職業を選んだからには一度は憧れる伝説の冒険者。最強のSランク冒険者。……俺もガキの頃に憧れた。


「装備からして違うよな、Sランク冒険者は。伝説の剣とか持っていたりして、その実力も天下無双! やっぱ聖剣とか持っているのが最低条件じゃね?」

「聖剣でなくても、魔剣でもレア武器でもいい。そういうのを持っているだけで箔がつくってもんだ。Sランクでなくても、ちょっとした有名人になりゃあ、モテるだろう」


 ふうむ、やはりそういうものなのだろうか。口下手が過ぎる俺には、そういうレアものでブーストをかけないと話にならないかもしれない。


「そういえば、この近くに何かなかったっけ? 魔剣とか」


 俺が思い出そうとすれば、クレイは首を捻った。


「近く、か? ……あぁ、カラコルム遺跡に魔剣か」

「誰にも抜けないってやつ」


 冒険者の一人が口元を緩めた。


「やめとけやめとけ。台座から抜いた奴は一人もいねえ」


 でも、あるんだよな、魔剣。いっちょ、挑戦してみるのもありじゃないか。駄目で元々。やってみる価値はあるんじゃないか?



  ・  ・  ・


 そして俺は、魔剣を手に入れた。

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