第3話

 ニコラが王宮に勤め始めて、半年が経ったころだった。セドリックとニコラがまた我がタウンハウスにやって来た。同じようにサンルームのテーブルセットに腰掛ける。


「姉様、ごめんなさい!姉様を傷つけるつもりはなかったの!」


 隣でセドリックは青ざめた顔で茫然自失としている。


「私を傷つけるつもりが無くて、どうしてあなたがセドリックの子を身ごもるの?」


「そ、それは。」


「――テディベアのハリー、お気に入りの髪飾り。あなたはそうやっていつも私の大切なものを奪っていく。私ね、昔からあなたのことが大嫌いだったわ。親同士が仲良くなかったら、とっくにあなたとの縁なんか切っていた。」


「――メリッサ姉様、それ本気でおっしゃっているの?」


「ええ。だから私はこれを機にあなたと絶縁するわ。もう二度と私に近寄らないで頂戴。それと、セドリック、これからの話し合いは、弁護士を通して下さい。"今まで"の分も含めて慰謝料の相談をしたいから。」


「今までの……?」


 不思議そうにニコラが小首をかしげる。


「待ってくれ!メリッサ!俺には君しかいない。ずっと君が大好きで、君と婚約できると決まった時は天にも昇る気持ちで……、でも君は身体を許してくれなかった。だから……。」


「だから?セドリック、あなたは私の初恋の人。私もあなたと婚約できた時はうれしかった。でも、それを裏切ったのはあなたよ。――さようなら。」


 呆気ない終わりだった。「メリッサ」と私を呼ぶ彼の声を聞いて、初めは胸が高鳴った。でもいつごろからだろうか、こんなに胸の奥が冷えるようになったのは。


 私は、従兄のクリストファーに紹介してもらった弁護士に、今までの資料を全て渡した。もちろん今回の件は、セドリックの有責、慰謝料は水害の支援分くらい取れるだろうと言われた。


 セドリックの母から申し訳なかったという主旨の長い手紙を頂いた。それからしばらくして、彼女は心労がたたり息を引き取ったと聞いた。もちろん喪中のため、二人の結婚式は執り行われなかった。


 "Nは泥棒猫のような令嬢だ。昔から私たちの周りをうろついて、その隙を狙っていた。彼女は口ではすまないと言いながら、とても満足そうに少し大きくなった腹を見せつけてきた。隣でSは絶望に満ちた顔をしている。どうしてSがそんな顔をするの?全部Sがしたことなのに。私は呆れて二人を眺めた。きっとSの浮気癖は一生治らない。でもNはまだそのことを知らない。泥棒猫が他の泥棒猫から獲物を奪われる、そんな未来が目に浮かんで私はほんの少しほくそ笑んだ。"


 ニコラの話を書き終えると、私はコラムを連載終了にした。クリストファーに止められたが、仕方ない。婚約者の観察日記だ。婚約が解消されてしまっては、もう書くことがない。


「さて、どうしたものか。」


 我が実家、ワトソン伯爵家は兄が継ぐ。今は兄嫁とも仲良くさせてもらっているが、世間一般では未婚の女性がいつまでも家に残ることはよしとされない。両親はゆっくりしていていいと言ってくれるが、今の私は完全に行き遅れだ。このままでは修道院で神にその生涯を捧げることも考えないといけない。


「――クリストファー従兄さんに相談したら、何か職を斡旋してくれないかしら?記者とか、家庭教師なら、私に向いている気がする。」


 私は早速、クリストファーに手紙を書いた。後日、紹介したい人がいると、彼から返事をもらった。

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