第2話

 家に帰ると、記憶が新しいうちに、メモの内容を新聞のコラムにまとめた。私のコラムのファンだと言う、ライナスのことも"L"として登場させた。


「明日の午後はセドリックとお茶会か。――ティアニー侯爵夫人と一晩を共にした後、彼がどういう顔でうちに来るのか楽しみだわ。」


 初めは私も彼の浮気を知り、怒りそして悲しんだ。でも今はそういう気持ちはない。ただ淡々と檻の中の動物を見るように彼を見ている。


 翌朝一番、従兄のクリストファーの新聞社に原稿を届けに行った。


「おお、メリッサ!新しい原稿だね。コーヒーを淹れるから、そこに座ってちょっと待ってて。」


 淹れたてのコーヒーの香りが部屋いっぱいに漂う。コーヒーを一口すすると、クリストファーが原稿を読み始めた。


「へえ、セドリックの奴、すっかりティアニー夫人に気に入られているんだね。彼女結構"激しい"らしいから、彼女好みに仕上げられているかも……。」


「やめてよ。従兄さん。変なことを言わないで。」


「冗談冗談。それにしても、この新しい登場人物、Lって誰?もしかして何かの伏線だったりする?」


「ああ、それはライナス・ブラッドフォード様よ。昨日の仮面舞踏会でお会いしたの。私のコラムの大ファンなんですって。」


「へえ。あの氷の貴公子が君のコラムのファンね。こんな下世話なコラムを読んでいるなんて意外だな。」


「氷の貴公子?とても気さくな素敵な方でしたよ。」


「彼はもともと隣国の王女殿下と婚約していたんだが、彼女が近衛騎士と駆け落ちしてね。それ以来、全ての縁談を断り続けているって噂だ。」


「そうなんですね。ならどうして仮面舞踏会にいらしてたんでしょう?」


「さあ?君の婚約者と一緒で一晩限りの相手を探しているんじゃない?このコラムを読んでいるくらいだし。」


「紳士的でしたし、違うと信じたいですが……。」


 新聞社を後にして、私は午後のセドリックとのお茶会に備えて、パティスリーでケーキを買った。いつでもこちらが有利に婚約解消できるよう浮気の証拠は集めているが、家と家のことを考えれば、感情を押し殺してこのまま彼と結婚した方が良い。だから何事もなかったように、良好な関係を続けたいと思っていた。


「セドリック、久しぶりね。元気だった?」


 我がタウンハウスに訪れたセドリックをサンルームに通し、私はにこやかに言った。もちろん昨晩も尾行していたとは、お首にも出さない。


「メリッサ~!会いたかったよ。僕の大好きなチョコレートケーキだね。いつもありがとう。母さんの具合さえ落ち着けば、すぐにでも君と式を挙げるのに。」


 早速、彼の右耳の裏にキスマークを見つけたが、それは黙っていることにした。


「そうね。おばさまのご体調が心配だわ。早くお元気になられるといいのだけど。」


「メリッサは優しいね。大好き。」


 にこにこと当たり障りのない会話をつなげ、ケーキをつまむ。そこに侍女が申し訳なさそうに現れた。


「――あのお嬢様、ニコラ様がお越しなのですが。」


「え、ニコラが?今日はセドリックが来るから、会えないって伝えておいたのに。」


「ああ、ニコラちゃん?ほら、久しぶりに王都に出てきたから、早くメリッサに会いたかったんじゃない?」


 ニコラは二歳年下の子爵令嬢で、うちの母とセドリックの母、そしてニコラの母が、母親同士とても仲が良かった。だから小さい頃からよく一緒に遊んだ。ちなみに今日、彼女が会いに来たのはおそらく私ではない。昔から彼女はセドリックのことが大好きで、色々と彼にちょっかいをかけてきた。今日もセドリックに会いに来たのだろう。


「セドリック兄様、メリッサ姉様、お久しぶりです!」


 そう言って、彼女はカーテシーで挨拶した。ピンクブロンドを二つに結び、ルビーのような瞳を潤ませている。そして当然と言わんばかりに、サンルームのテーブルセットに腰掛けた。


「ニコラちゃん、今度王城に侍女として奉公するんだろう?王妃付きの侍女なんてすごいじゃないか!」


「そうなんですの!王城のことは何も分からないから、兄さまに色々と教えて頂きたくて。」


 そして、二人は楽しそうに話を始めた。セドリックもニコラを妹のようにかわいがってきたから、うれしいのだろう。一方、私は蚊帳の外だ。


「では、セドリック兄様、メリッサ姉様、今日はとても楽しかったです。」


「ニコラちゃん、また王宮で。」


 とても嫌な予感がしたが、私は黙って事の成り行きを見ることにした。

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