第2話 村の生活




○ホリウドの村(数年後)


   《数年後》のテロップ。

   村の生活。行き交う人々。


○カフィンの家の前・道

 

   やや逞しくなったカフィン(十六、七歳)が自宅から出て来る。

   なにか荷物を持って歩いて行く。

   行く手にコーチャ(幼なじみの少女。同い年)が立ちはだかる。


カフィン「(作り笑顔で)おはよ。いい天気だね。髪切った? 似合ってんじゃん。じゃ、ちょっと用事あるから、あとでね」


   早足で通り過ぎようとするのを、コーチャ阻んで、


コーチャ「またあの子のとこに行くの?……」

カフィン「(そらっとぼけて)いや? なんのことかわかんないし、ほっとけよって感じだし」

コーチャ「そりゃ、わたしだってこんなことしたかないわよ」

カフィン「こんなことって、なにかわかんないし、じゃあすんなよって感じだし」

コーチャ「……だって、カフィンのパパに頼まれてんだもん」

カフィン「……わかってるよ。だから――ごめん!」


   フェイントをして突破し、歩き去るカフィン。

   コーチャ、寂しげな顔で見送り、小さく中指を立てる。


○森の中


   荷物を持ったカフィンが歩いて来る。


カフィン「おーい。来たぞォ」


   斜めに幾本も木漏れ日のさす木々。

   返事がない。


カフィン「おーいってばさ。よう。……ルールルル。ルールルルルル……」

声「いい加減にして!」


   カフィンが振り向くと、タルニコ、地面から顔を出している。


タルニコ「キツネじゃないぞ」

カフィン「ありがと。出て来てくれて」


   タルニコ、心なしか頬を赤らめ、そっぽを向く。

   カフィン、素知らぬ顔で、荷物を広げる。

   中からは食べ物。(芋や大根など)


タルニコ「……どうも」

カフィン「いいってことよ」

タルニコ「――でもね、何度も言ってるけど、あたし、食べ物なんか一人で獲ってるから。カフィンよりよほどいいもの食べてるんだから」

カフィン「(それには答えず)また遊びに来いよ。昔みたいにさ」

タルニコ「……」


   カフィン、返事を待つふうでもなく、その場にどっかと座り込んで、『風上新聞』を広げる。

   タルニコ、以前よりは少し離れて、カフィンの傍に座る。


○大モグラの家の中(タルニコの回想)


   土の壁に、窓、カレンダー。素朴な机や椅子。

   タルニコの両親と思われる大モグラの夫婦。

   寝床でうごうごしている幼いタルニコ。


タルニコの母親「ほんとに。この子ぐらい寝相の悪い子ったらないわね」

タルニコの父親「おまけに、底なしの体力だもんな。そのうち、眠ったまま地の底まで行ってしまうよ」


○大モグラの診療所(タルニコの回想)


   石の壁。診察室。


先生「まあ、いわゆる夢遊病の症状だが、このくらいの子どもには珍しくないことだ。成長したらなくなる」


   白衣を着た大モグラの老人が、少し大きくなったタルニコを膝に乗せている。

   タルニコは大人しいが、片目の下に涙がついている。

   その前に両親がいる。

   少々悲しそうな顔。


タルニコの母親「ですけれど、ずいぶんその、程度が――うちの人が何度探しに行きましたことか。夜中にいなくなっていて」


   タルニコの父親、先生からタルニコを受け取り、膝に乗せる。

   タルニコの母親、それを見ながら、話し続ける。


タルニコの母親「一度なんぞ、地中から川に出まして」

先生「川に!」

タルニコの母親「はい。この子の掘り進んだ穴から、家の中まで水が押し寄せて来て、そのおかげでわかったんですが……」


○ホリウドの村・早朝の道端(タルニコの回想)


   座り込み、ぱちくりしているタルニコ。

   胸中「穴……」きょろきょろするけれど、穴は見えない。

   そこへカフィンがやって来る。


幼いカフィン「わっ、なんだお前。神さまか?」


   タルニコ、悲しげな顔で、見上げている。

   カフィン、タルニコの大きな手と屈強な爪をしげしげと見て、


幼いカフィン「やっぱり神さまだろ、お前。礼拝堂で見たことあるもんな。オレたち掘人(ホリウド)のこと、守ってくれてるんだろ? ――……おい。なんか言えよ、アホ」

幼いタルニコ「あたし……神さまじゃない」

幼いカフィン「(ガッカリした顔で)なんだ、ちがうのか? ちぇっ。役に立たねえな」

幼いタルニコ「ごめんなさい」

幼いカフィン「まあいいけどさ。反省しろよ?」


   タルニコ、うなずく。

   そこへコーチャが歩いて来る。


幼いコーチャ「(持っていた荷物を落として)モンスター!」


   タルニコ、ビクッと首をすくめる。

   そこへカフィンが立ちはだかるように、


幼いカフィン「あー、ちがうちがう。神さまですらなかったんだから」


○森の中(現在)


   『風上新聞』を読みふけるカフィンを、タルニコ、膝を抱えて、見つめている。


タルニコ「――なにか進展あった?」

カフィン「(新聞を読みながら)あったあった。どこまで話した?」

タルニコ「勇者マグカフが、台風で飛んで来た不死鳥の羽で、最強の防具作って、王国の騎士団長を倒したとこ」


   新聞記事。マグカフの写真。傷だらけの悪党づら。

   重そうな兜をかぶり、不敵な笑み。


カフィン「もうそこまで行ったか。ええとね、それから、マグカフの竹馬の友の、ペルトボルが、古代兵器のレプリカの銃を手に入れて、ガンガンぶっ放してる」


   新聞記事。ペルトボルの写真。

   スキンヘッドの大男が大砲をかついでいる。


タルニコ「へえ。――あたしたちの代の勇者一行、楽勝なんじゃない?」

カフィン「ほんとだな」


   木漏れ日のさす中、二人で座っている。


○森の中・道(後日)


   《パトロール中》のテロップ。

   カフィン、コーチャ、それから村の若者数名。

   引率の村人(大人)、そこいらの動植物を集め、ポイポイと地面に投げる。

   若者たち、それぞれ手に取って、眺める。


カフィン「異常なし」

若者「はい、異常なーし」

コーチャ「……ちょっと、異常あり」


   みんな集まって来る。

   そのネズミを、引率の村人、さっさと突き刺して殺す。

   せっせと穴を掘りながら、


若者2「どれぐらいの大物になってたかな」

若者3「せいぜい、三日分のメシにはなったかもぐらいじゃないの」

若者「いっそ、ムッキムキに育ててさ。懸賞金クラスにまでしたいね」


   引率の村人、キッとにらむ。

   若者たち、口を閉ざし、肩をすくめる。


引率の村人「本当に、お前たち、村の外では考えてしゃべれよ? ひどい目に遭うからな」

若者たち「へぇーい」


   と答えて、ネズミを埋めた土をぱんぱんと踏む。

   N『《パトロール》の意図。モンスターは基本的に《表》から流れて来るが、時には《こっち》の動植物が突然変異して、モンスター化する。摘める芽は摘み続けるのが《こっち》の人々の鉄則。』

   カフィン、なにやらくんくんとにおいを嗅いでいる。

   さりげなく、傍にコーチャがいる。


カフィン「はい。(と手を挙げ)近くにモンスターの死骸」


   引率の村人も若者たちも、一気に引き締まり、


引率の村人「どっちだ」

カフィン「あっち」


   みんなでそちらへ行く。

   N『ゆきずりの冒険者が放置してゆくモンスターの死骸は、腐ると毒ガスをまき散らし、疫病の元になる。ホリウドの村の周辺にも、足を踏み入れられなくなった《侵された地》多数。』


○森の中・陽だまり


   モンスターの死骸。

   みんなで盛んに土を掘る。

   タルニコには及ばぬながら、ドバドバと掘る。

   コーチャも例外ではない。


○森の中・道


   誰もいなくなって、茂みからタルニコが顔を出す。

   地面に潜り、出て来る。

   その手には、先ほど埋められたネズミの死骸。


タルニコ「(においを嗅ぎ)――大丈夫、ふつうのネズミだ」


   カフィンがくれた食べ物の袋に加えて、去る。



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