Untold Quest

尼子猩庵

第1話 ホリウドの村




○ホリウドの村(引き)


   広大な森の中、少し高台、森を見下ろす山村。

   《ホリウドの村》のテロップ。


○ホリウドの村(寄り)


   どこか無気力な村人たち。質素な服装。

   桶で水を運んだり、日陰に座って籠を編んだり。

   何人かは、ただ退屈そうに空を見ている。


○見張り台


   手びさしをして森を見渡している、小汚い少年。

   しばらくして手を下ろし、ため息をつくと、あぐらをかいて腕を組む。

   そのまま後ろに寝転がる。

   空。雲。鳥。

   少年、やおら足を振り上げ、下ろした勢いで立ち上がると、ふたたび手びさしをして森を見渡す。

   やがて、なにかを見つけた様子。

   眉間にしわを寄せ、「んん……?」と前のめりになって、


少年「――来たかな?」


   じっと見つめる。


少年「来てる……よなァ?」


   じっと見つめる。


少年「よーし、来い来い来い。そうだ、いいぞ……。行き過ぎるなよォ……行き過ぎるなよォ……」


   そのまましばらく見つめていて、やがて嬉しそうに指をぱちっと鳴らすと、大きな音で、ぴゅううっと指笛を鳴らす。


○イメージ(※アントニオ・デル・ポッライオーロ『ヘラクレスとヒュドラ』の絵)


   N『ゆきずりの冒険者たちが、偶然出会ったモンスターを見境なしに倒しては、死骸をほったらかしてゆく。冒険者の姿が見えなくなると、村人たちはモンスターの死骸に群がり、可食部を切り分け、残りは埋める。』


○森の中


   大型モンスターの死骸に、村人たちが取りつき、黙々と解体作業をしている。


村人(若者)「ちぇっ。ババつかまされたなァ」

村人2(若者)「(肉を切り取ろうと苦心しつつ)マジで……硬過ぎるぜ。こいつ全部この調子か」

村人(年長)「つべこべ言わずにやれぇい」

若者たち「へぇーい」

村人(年長)「――硬いくせに、腐るのは早そうだな。――おーい(掘っている連中に)気張って掘れぇい」

掘っている連中「へぇーい」


○広大な森(引き)


   森の中に横たわる大型モンスターの死骸。

   早送り。だんだん骨になり、骨も小分けにされ、最後は消える。


○ホリウドの村(引き)


   広大な森の中、少し高台。森を見下ろす山村。


○カフィンの家・中


   カフィン(十二、三歳くらいの少年)が新聞を読んでいる。

   『風上新聞』と書いてある。

   その隣に、タルニコ(大モグラの少女。同年輩)が座っている。

   雑な造りのお人形の髪を安物の櫛で梳いている。


カフィン「(ため息をついて)相変わらず、《表》のほうは事欠かないぜ」

タルニコ「(梳く手を止めて)もうなにかあったの?」

カフィン「新しい勇者一行が、魔王を倒しに旅立ちましたとさ」

タルニコ「魔王、もう復活したの?」

カフィン「(少し黙読したあと)……いや、それはまだだいぶかかるみたい」


   タルニコ、横から新聞を覗き込む。

   カフィン、少しスペースをあけてやる。


カフィン「なんにせよ、この連中がオレたちの世代の勇者一行ってわけだ。できうる限り盛大に、ドンパチやってもらいたいね」


   そこへ、遠くでぴゅううっという指笛の音。

   カフィンとタルニコ、窓のほうを見やる。


カフィン「それに比べて《こっち》の冴えなさよ――」

タルニコ「(カフィンを引っ張り起こしつつ)さ、ごはんごはん!」


○道


   人々がバタバタと駆けてゆく。


村の子ども「大物だ! バケモンだ!」

カフィン「(子どもを呼び止めて)もしかして、懸賞金クラスか?」

村の子ども「そうだよ! しかも倒したのは一人だってさ!」

カフィン「(ガッカリしたふうで)なんだ。じゃ死骸は回収されて終わりか」

村の子ども「だから早く見に行くんだ!」


   そのまま駆け去る。

   その際、タルニコを「どけ、半モン!」と突き飛ばして。

   タルニコ、平然としている。

   カフィンもとくにリアクションせず。


○森の中


カフィン「なにが悲しくて。ちまちました、くっせえ後始末だけしなきゃなんないってのに」


   そう言いつつ、死骸を見に行っている途中。


タルニコ「だけどすごいね。一人でやっつけたんだって。《表》から流れて来た冒険者だったりしてね」

カフィン「まだ近くにいやがるかな。――とりあえずサインだけもらっとくか」


   タルニコ、ふと立ち止まり、きょろきょろ。

   地面に耳をつけて、


タルニコ「――おっと。これは、まあまあの事態だ」

カフィン「簡潔に」

タルニコ「今にも死にそうな冒険者が一人。あっちの方角(と指さす)」


   二人、そちらへ向かう。


○森の中・さらに深く


   木の根方に浅くもたれ、力なく両足を投げ出しているロクパンク(中年の冒険者)。

   立派な剣と盾が傍に落ちている。大量の出血。

   カフィンとタルニコ登場。ロクパンクを見下ろす。

   いつまでも黙って見ているだけなので、


ロクパンク「……見ているだけか?」


   カフィンとタルニコ、答えず、なおも見ているだけ。

   ロクパンク、呆れたように肩をすくめ、やれやれと首を振り、


ロクパンク「まったく、辺境の連中ちうものは――」


   それから、ちっと舌打ちして、悔しそうに独り言。


ロクパンク「あのモンスターは、わしが倒したんだ……」


   カフィンとタルニコ、目を見交わす。

   タルニコ、ロクパンクのそばに行き、ロクパンクのにおいをちょっと嗅ぐ。


ロクパンク「(枝葉の隙間から見える空を見上げ)見せたかったよ。その剣で、あのデカブツを、スパーン……」

カフィン「おっさん、大丈夫かい? だいぶ頭ァやられたんだね。かわいそうに」

ロクパンク「(怒る気力もないように)違うわ。たわけ。本当にわしが倒したんだ。それを、あの野郎……手柄を横取りするために」

カフィン「おっさん、仲間に裏切られたのか。そんなすごい武器持ってるのに、アホなんだなァ」


   ロクパンク答えない。

   タルニコ、覗き込む。

   大モグラ特有の、非常に大きな手で、つんつんする。


カフィン「それで、その裏切り者に、どんなふうにやられたの?」

タルニコ「……もう死んじゃったよ」


   カフィンも覗き込む。


タルニコ「埋めたげよう」

カフィン「そうだな」


○大きな木の前


   ロクパンクの亡骸がぞんざいに寝かされている。

   カフィンが猛烈に土を掘っている。

   汗だくのカフィンが腰をのべて背伸びをすると、代わってタルニコが続きを掘る。

   ドバーッと一気に掘れる。


カフィン「(ロクパンクの剣や盾を未練がましく見つめ)……これ売ったら相当の――」

タルニコ「(即座に)ダメでしょ?」

カフィン「はい。不人情でした」


   二人でロクパンクを埋葬する。

   剣と盾をしっかり握らせ、なんとなく厳かな格好にして。

    埋めた上に草をかぶせ、カモフラージュをして、二人、しばらくたたずむ。



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