籠の鳥は、闇を喰らう<二つの城>
ささやん
第1話 プロローグ
「帝都行きの馬車がもう、出ますぞ、キルケ殿」
その言葉と同時に、私の部屋の扉がいきなり開いた。
「!」
「?!」
私の眼に映ったのは、小太りの貴族のおじさん。
彼は、私達、冒険者パ―ティ『籠の鳥』の交渉役、スレイマン。
そして、おじさんの眼に映った私は、そのパーティ唯一の女性、キルケさん。
その美貌には、三十路手前には、まったく見えない瑞々しさ…
これは、自分で言うべき事じゃないわね。
ここで言うべきことは、他にある。
「いつまで、私の着替えを見てんのよ、お金取るわよ」
「す、すみません―――急いでください」
スレイマンは、真顔に戻って扉を閉めて、逃げるように宿屋の階段をばたばたと降りて行った。
今さら、別に減るもんじゃないし、金貨一枚置いて、そこで刮目してりゃいいものを…
私は下着を付けて、整えて、クローゼットから衣裳を取り出した。
そう言えば、スレイマンって、ナニが使えないだっけ。
――どうでもいいけど
外で馬車の車輪の音がした。
私は、散らかした私物を慌てて、カバンに詰め込む。
何気なく掴んだ小物に、私は見入ってしまった。
とある国の紋章の入った手鏡。
私は、それを手に入れた時の事を思い出していた。
昨年…いや違う、もっと前の年の秋頃の話だわ。
確かに、この冒険者パーティ『籠の鳥』は、あったことはあったわね。
ただ、臨時でパーティを組んだだけって感じの頃。
それに、うちって、メンバーの性格等に問題があるじゃない?
あいつら、私の実力をかなり下に見てた。
そんなある日、シルヴァンに私は酒に誘われた。
あの頃は、銀髪を後ろで纏めた髪型の10代の中性的な男の子風だったかな。
涼しい瞳、ええい、もういい、美男子、女装すれば、私より女っぽい。
でも、実は私より年上の長寿族のエルフ。
それでも多少、誘われた時には内心ドキドキした私。どうしようもない馬鹿。
「人気者の僕の仕事がブッキングした。これ簡単なほう、だから君に任せる、できるよね」
依頼書を投げてよこした。
見かけに反して、その言い方がキツイというか、抜き身の剣。
「あーそうですか」
その後のシルヴァンへの文句は、悪酔いのせいで忘れた。
とにかく、私としては、女の子と遊ぶお金が無かったので、ありがたく引き受けたってわけ。
「わかったわよ、やってあげる」
そう言って金貨3枚をポケットに突っ込んだんだっけ。
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