クリスマス・ツリー・ハウス

チャカノリ

前編

 十二月が始まったとある日、少年・トモキはあることを思い立った。


 退屈なこの冬休みを楽しくしようと、自分の家の裏庭に植えられた広葉樹の木に、ツリーハウスを作ることにしたのだ。


 木は、小学生であるトモキの1.5倍くらいの高さであり、一人でツリーハウスを作るには少し危険だったので、大工でもある父の協力のもと、遂に冬休み前日にツリーハウスを完成させられた。


 それは、友達が何人きても大丈夫なくらい、うんと頑丈で広いツリーハウスになった。ただ欠点を上げるとすれば、そこまで高いところに建てられていないため、ちょっとジャンプすればよじ登って入れてしまうのであった。


 とはいえ、自慢したくてたまらなかったトモキは友達のケントを誘い、さっそく冬休み初日である21日に一緒に遊ぶ約束をした。


 21日の朝、遂に二人でツリーハウスに入ろうとしたそのとき、奇妙なことに、木は昨日よりもかなり高く伸びたせいで、ジャンプしたぐらいじゃツリーハウスに入れなくなっていることに気が付いた。そこでケントが家からロープを持ってくると、輪っかにした先端をハウスの入り口に投げて括り付け、それを使って登り入れるようにしてくれた。


 頭を使った遊びが大好きなケントとは、ツリーハウスでは将棋やオセロなどのボードゲームで遊んで過ごした。とっても濃くて、楽しい一日になった。


 お互い遊びつくして疲れた頃、ケントはこんなことを言った。


「これ、二人も良いけど、三人だったらもっと楽しいかも」


 そこでツリーハウスで遊び終わった後、トモキの友人であるリョウを誘い、翌日はツリーハウスにて三人で過ごすことになった。


 22日の朝、三人でツリーハウスに入ろうとしたそのとき、またもや木が高く伸びたせいで、昨日ケントに括り付けてもらったロープに手が届かなくなっていた。そこで、三人でじゃんけんして負けたトモキが軽いリョウを肩車し、リョウの家から持ってきた縄はしごの一部を昨日ケントが括り付けた縄に結び付けた。そうして、三人はツリーハウスに入ることができた。


 歌好きなリョウも交えた三人は、スマホのアプリを使ったカラオケ大会や、リョウが持ってきたウクレレを使った絶対音感クイズを楽しんだ。とても賑やかな、楽しい一日になった。


 お互い遊びつくして疲れた頃、リョウはこんなことを言った。


「これ、三人も良いけど、四人だったらもっと楽しいかも」


 そこでツリーハウスで遊び終わった後、トモキの友人であるユウも誘い、翌日はツリーハウスにて四人で過ごすことになった。


 23日の朝、四人でツリーハウスに入ろうとしたそのとき、木がさらにうんと伸びたせいで、昨日リョウに結び付けてもらった縄はしごにも手が届かなくなっていた。そこでユウは器用な作業もできるお手製のマジックハンドを用いて、自分がカラビナをつなげて作った鎖を縄はしごに括り付けた。そうして、四人はツリーハウスに入ることができた。


 工作と発明好きなユウも交えた四人は、ユウが持ってきた空き箱などの資材や道具を使って、発明に明け暮れた。新たな発見も生まれた、革新的な一日になった。


 お互い遊びつくして疲れた頃、トモキはこんなことを言った。


「明日、このツリーハウスでクリスマスパーティーしない?」


 しかし三人は難色を示した。全員、クリスマスは家族とお出かけに行くなどして、クリスマスパーティーに参加できないのだ。それに対し、トモキはハウスの床を転げまわってごね始める。


「もう知らない!」


 遂にトモキは、拗ねたようにツリーハウスを去り、家に戻ってしまった。


 その後、三人が何を話したり、どんなことをしたりしたのかをトモキは知る由が無かった。


 24日の朝、遊ぶことやるべきことを見つけられなかったトモキは、何気なくツリーハウスの元へ行くと奇妙なことが起きていた。


 ケント、リョウ、ユウの三人の力もあってこそできていた、ツリーハウスに入るための縄や縄はしご、鎖が無くなっており、ツリーハウスの中へ入れなくなっていたのだ。


 トモキは最初、かなり焦り、三人にそれぞれ連絡し、縄や縄はしご、鎖を外したのかとチャットアプリで聴いた。しかし、三人から既読が付いた後に何も返信されなかった。きっと、外したのは本当に三人の仕業だったのだろう。


 改めて地面から見上げると、ここ最近やけに木が伸びていたせいで、トモキの身長の3倍の所にまでツリーハウスが持ち上がっているのが分かる。その高さは、失ったものの大きさと元に戻せない辛さをトモキに実感させるには十分すぎた。


 この日の夜、家で家族と共にクリスマスパーティをしたが、クリスマスケーキやチキンなどのごちそうはどれも味がしなかった。


 何もなく、ただただ寂しい一日だった。


 25日の朝、家の中にあるクリスマスツリーに置かれたプレゼントの包みを、トモキは親の前で力なく破いた。それは、以前欲しいと言っていた工具箱とそのセットだったが、今のトモキは少しも嬉しいと思えなかった。


 <つづく>

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