第4話
レイは時間を忘れる程、シュナの体を堪能した。騎士団に所属したら、忙しくなる。モンスターを倒す為に、辺境まで行くこともあるだろう。そしたら、シュナとの甘い夜を過ごすことは出来ない。
そんな寂しさから、レイの手は、指は、腰は、休まることを知らなかった。
シュナの首筋に、胸元に、キスマークをつけていく。僕の物だと主張するように、変な輩に襲われないように。
寝ることを忘れる程、一晩中、抱きつぶした。
ヴァルハラ王国。その頂点に君臨する皇族直属騎士団の入団式、その日はレイにとって新たな大金稼ぎへの第一歩に過ぎなかった。
懐には、一冊の革手帳が忍ばせてある。その紙面には、魔法によって焼き付けられたシュナの淫らで痛々しいほどに愛らしい姿が、克明な映像記録として収められていた。離れている孤独な夜、この手帳を開けばいつでもあの隠れ家の熱を、彼女の震える吐息を思い出すことができる。その歪な確信が、レイに冷徹な活力を与えていた。
「我ら騎士団の使命は、王都の静寂を守る巡回、そしてはびこる魔獣の討伐にある。時には小国からの依頼を受け、血生臭い戦場へ赴くこともあるだろう」
演台に立つ騎士団長、ダンカン・フィエルバッハの剛毅な声が、石造りの訓練場に鋭く木霊した。
「今日この門を潜った新人諸君の中には、己の力を過信している者も、未だ磨き切れぬ者もいるはずだ。故に、貴殿らの資質を見極め、所属班を決定するための模擬戦を行う!」
ダンカンの宣言に、場がにわかに殺気立つ。その中で、一際不敵な笑みを浮かべたのは、八重歯が印象的な一人の少年だった。
彼は植物魔法の使い手だろうか、指先から微かに青臭い魔力の薫りを漂わせている。周囲のライバルたちを「獲物」として見定めるような、自信に満ち溢れたその眼差しは、自分がこの模擬戦を制圧することを微塵も疑っていないようだった。
氷のように静かな闘志を宿したレイと、若き植物魔法の使い手。
ヴァルハラ王国の未来を担う「牙」たちが、今、互いの力を試すべく衝突しようとしていた。
「あら、良い子たちが揃ったわね」
ダンカンの傍らで、品定めをするように新兵たちを見つめていたのは、シエル・グランベルだった。特定の班に縛られず、戦場を自在に駆ける「フリーの遊撃手」として活動する彼女は、その美貌以上に、他者の才気を見抜く鋭敏な感覚を持っていた。
数多の新人の中でも、シエルの視線は二人の少年に釘付けになる。
絶対零度の静寂を纏ったレイ・フリードと、若葉のような奔放な生命力を爆発させるカイル。天才騎士としてその名を轟かせるシエルにとって、彼らの内に眠る膨大な魔力の奔流は、隠しようのない輝きを放って見えた。
「ああ。確かレイとカイルだったな。あの二人は・・・間違いなく化ける」
ダンカンもまた、その意見に同意するように力強く頷いた。二人の新星が、いずれ騎士団の柱へと成長する未来を、彼は確信を持って予見していた。
「ふふっ、そうなれば・・・私たちの時間も、もっと増えるわね」
模擬戦の喧騒に紛れ、シエルが密やかに、蜜のような甘い声を漏らした。それは将来の騎士団の安泰を喜ぶ言葉というよりも、重責から解放され、愛する男と肌を重ねる時間を切望する、女としての本音だった。
「シエル・・・」
その妖艶な呟きは、ダンカンの耳を熱く撫で、彼の理性を容赦なく揺さぶった。厳格な騎士団長の仮面の裏で、彼女への抑えきれない渇望が、下腹部を熱く突き上げる。
新人たちが砂塵を舞い上げ、己の力を誇示するために激突する最中。その指揮官たちは、戦場の熱狂とはまた別の、濃密で背徳的な熱に浮かされていた。
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