未知との遭遇
OROCHI@PLEC
未知との遭遇
これは私が体験した、今は既知となったとある未知との遭遇だ。
ある日の雨上がり、私は散歩をしていた。
鼻歌を歌いながら気持ちよく歩いていた時だった。
角を曲がろうとした時、誰かにぶつかった。
どんという音がして私は倒れ込んだ。
ぶつかった相手は、骸骨のお面を付けて黒いローブを羽織った死神だった。
「ぎゃー!!! 死神!!!」
「えっなになになに!?」
思わず叫び声を上げてしまった。
まあ、街中で急に誰かとぶつかっただけでも驚くのに、その相手が死神だったらなおさら驚くだろう。
「えっ、死神? 死神だよね? じゃあ私、死神にぶつかっちゃったから殺される? ああ、お母さん。親不孝な私を許して」
思わず恐怖で体が震えてしまう。
私はこのまま殺されてしまうのだ。
まだやり残したことがいっぱいあるのに。
明日は推しのライブに行く予定だったし、明後日は友達とカラオケに行くつもりだったのに。
そういった約束も、そして私という存在も全て、消えるのだ。死によって。
人生という私が今まで築き上げてきたものが全て無に帰すのだ。
怖い、怖い。
思わず目から涙が溢れる。
「いやいや! そんなぶつかったぐらいで殺さないですから! というかそんなんで殺せないですから!」
ああ、良かった。思わず安心して腰が抜ける。
「……貴方は情緒が激しいですね」
「はい?」
何を言っているのだろうか、この死神は。
「ちなみに一つお聞きしたいことがあるのですが、死ぬのは怖いですか?」
「はい!」
当たり前だ。
死ぬのが怖くない人なんて本当にごく少数だ。
「では、私は死を与える者ですが怖いですか?」
「いいえ! 話した感じなんか普通の良い人そうな感じがしたので!」
「そうですか、ではその違いは何ですか? どちらも結果的には死に繋がるというのに」
言われてみれば確かに。何が違うのだろうか。
「目の前にいるかどうか?」
「惜しいです。正解は知っているかどうかです」
「どういうことです?」
「例えば、貴方は私とぶつかる前、死神のことをどう思ってましたか?」
「死を与える神で怖いものだと思ってました!」
「では私と話した後は?」
「意外と親しみやすい感じがするなと。あと私とぶつかるなんて意外と鈍臭いなと」
「ほう、急に鎌で素振りをしたくなってきましたね」
「ごめんなさい……」
「素直でよろしい。そしてこの怖いという感情は、私のことを知っているかどうかで生まれているということには気づきましたか?」
「あっそういえば!」
「そういうことです。結局恐怖などといったものは未知から来るのです。私は貴方にとって未知の存在だったが、会ったことで既知となり、怖くなくなったということです」
「つまり死も同じ。知れば怖くなくなり、知らなければ怖くなる。先程貴方の心を少し見せてもらいましたが、死を怖がり過ぎている様子でした。ある程度の恐怖は必要です。ですが、恐れすぎてはいけない。生きるというのは死ぬためではなく、幸せになるためのものですから」
「さてと、長話をしすぎました。そろそろ次の仕事場に行かなくては。それでは失礼します」
貴方の生が幸せでありますように、と最後にそう言って優しそうな死神は消えていった。
その日から私は色々なことを学ぶようになった。
物事を恐れすぎず、幸せに生きるために。
未知を既知とするために。
死ぬのも相変わらず怖いが、少しだけ怖くなくなった。
死について、死神さんを通して少しだけ知れたからだろうか。
死神さんはいつかきっと、私のことを迎えに来るだろう。
その時、死神さんはこう言うと思うのだ。
「幸せになるために最後まで生きれましたか?」
そう言われたら、私はこう答えるつもりでいる。
そしてそう答えられるように生きるつもりでいる。
「はい!!!」
未知との遭遇 OROCHI@PLEC @YAMATANO-OROCHI
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