鳴り響く電話は復讐

満月 花

第1話


スマホの着信の履歴に非通知並ぶ。

それも沢山。


ただかかってくるだけ、通話ボタンにするとタイミング悪く切れる。


男は溜息をついた。


営業職の男は非通知着信拒否が出来ない。

極たまに掛けてくる人の中には自分が非通知設定にしてるのを忘れてる人もいるから。

どんな電話も爽やかに応対するというのが営業職というものだ。


たまたま、タイミングが悪かっただけかも知れない。

せっかちな人なのかも知れない。

良い案件の提案があるかもしれない。


そう思うと着信拒否の設定が出来なかった。


帰宅し、気怠くスーツを脱ぐと受け取った彼女が心配そうに彼を見る。

「大丈夫?疲れてそうだけど」

彼は曖昧に返した。


同棲してるが結婚する気ない

自分的には都合の良いルームシェアとセフレ。

そんな関係だった。


だから、お互いの生活に必要以上に関心を持たない、踏み込まない。

そういう暗黙の了解。


身内には決まったパートナーいる、でも今は仕事が忙しいので

結婚は考えてない、とアピール出来る。

だけど実は、お互い自由、結婚する気ない

彼女もこの関係に満足してるはず、気ままな関係だ。


しかしこの頃の頻繁に非通知に、彼女も不審に思い始めている。

昼夜問わず掛かってくるのだから。


男がスマホをウンザリしたように放り投げると

彼女がチクリと嫌味を言ってきた。


「遊んだ女からの復讐じゃないの?

陰で遊んでるの知ってるよ?

刺されないようにね」


その言葉に男は一瞬焦る。


まさか 、そんなこと。

そりゃ、多少は覚えがある。

適当に言い寄って、相手が本気になりそうだったら

同棲してる事を匂わす。

ちょっとした大人のお遊びなだけだ。


そこまで恨まれる覚えはない。


警察沙汰にするのも怖い。

今はただ電話のみ、間違い電話からかもしれない。


そうやっても非通知着信を受け続ける日々

そして、仕事にも支障が出てきた。

着信が来ても一瞬、躊躇うようになった。

また、あの非通知かもしれない、と無視する様になってしまう。

そうなると本当に大事にしないといけない相手を見落とす。

上司から注意を受けた。


もうあの非通知が仕事にならない、むしろ支障が出ている。

だから着信拒否にしようと思った時だった。


「ごめん、あなたのゴタゴタに巻き込まれたくないの、別れて」

彼女にそう告げられた。


止まらない着信に苛ついて些細な事で彼女と喧嘩も多くなった。

もうお互い自室に篭り会話もなくなっていた。

快適な生活は崩れてしまっていた。


男は彼女を引き留めれなかった。

元々そういう関係なのだ。

男は黙って別れを受け入れた。


そして非通知着信がピタリと止まった。



新しい新居にまだ手を付けてないダンボールが積み上がっている。

彼女は部屋の真ん中で思いっきり伸びをした。


スッキリした。


「あ、この携帯もう解約しとかないと」

手に持ってるのはサブ用。

同棲してた彼も知らない。


「上手く別れられて良かった」

女は小さく笑った。

同棲の彼の非通知の鬼電。


実は彼女からだった。

利用されてるのが嫌になった。

そして、彼女にも将来を見据えた気になる男ができた。


でも都合のいい自分との同棲解消をすんなり受け入れてくれるとも

思えない。

男が彼女を理由に遊んだ女達を切り捨てていたのは知っている。

だって、彼と別れてと女に泣いて詰め寄られた事も一度や二度ではないのだ。


もうウンザリだ。

だから、嫌がらせをした。

それを理由を切り出した。


もう鬼電はしない。


彼女はスマホの電源を切った。

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鳴り響く電話は復讐 満月 花 @aoihanastory

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