第14話 虚構と転校生 2
三人で教室へ向かう途中、俺達の前に思いがけず朝稲、杉本、霜月、そして星野が揃って現れた。
な、何だ? 一体どうした?
「ケン、聞いたよ! あのイケメン転校生とガチでバトるんだって?」
「オウ! ファンタスティーック! 健太郎、ガニュ・アブソリュマン! 私も全力でサポートさせてもらうわ!」
「いいじゃんいいじゃん! ケンに喧嘩売るなんて調子乗んなって感じ、アタシも友達にケンに投票してって頼んでおいてあげる! 絶対に負けんなよ?」
「あ、あの、健太郎君頑張って、私も図書委員の子達に投票を頼むから!」
「健太郎さん、よく励まれてくださいね、私も応援しております」
興奮気味の三人からワンテンポ遅れてニコリと微笑む星野に、朝稲がガクッと肩を揺らす。
「ちょッ、ちょいちょい! ほしっちぃ!」
「はい?」
「まーいいや、ねねっ、ほしっちも身内に投票しっかり頼んでよね?」
「勿論です、健太郎さんのためにも、天ヶ瀬さんのためにも、私も微力ながらご助力差し上げます」
星野はどうやら理央と古い付き合いらしい。
たまにそういうニュアンスの話をするから、多分そうなんだろう。
元々この光輝学園には、理事である天ヶ瀬の絡みだろう良家の子息令嬢が結構通っていて、資産家令嬢の星野はそっち方面に顔が利く。
「大切な友人の危機です、私も一肌脱ぎましょう」
「さっすがほしっち!」
「フィヤブル!」
皆、有難う。
ここにいる全員が、俺と理央の勝利の女神たちだ!
「それじゃね、ケン、期待しててよね、そんでアンタも頑張りなよ!」
「健太郎、ジュ・グ・オファー・ラ・クローンヌ! 栄光はその頭上に! サリュー!」
「頑張って健太郎君、きっと大丈夫だよ」
俺に激励の言葉をかけて、満足した様子でそれぞれ教室へ戻っていく姿を見送った。
―――ん?
まだ星野だけ残っているな、どうしたんだろう。
「健太郎さん」
ちょいちょいと手招きするから、屈んで体を寄せる。
星野も背伸びをして俺に耳打ちする。
「理央さんのこと、よしなに頼みます」
「えっ」
驚く俺に、星野はニコリと微笑み立ち去っていく。
やっぱり知り合いなのか。
もしかして俺と薫みたいに、二人も幼馴染だったりするんだろうか?
「健太郎君、キミ、応援されてるね!」
不意に虹川が満面の笑みで声を掛けてくる。
「私も燃えてきた! 絶対に勝とうね、私も皆に投票を頼んでおくから、一緒に頑張ろう!」
「おお、ミキのサポート魂に火が付いた、こういうの好きだよね」
「リンだってそうでしょ?」
「まあね、勝負は勝ってなんぼだよ、競り合う以上は負けられない!」
熱い何かを共感し合う二人は、運動部に所属する清野は勿論そうだが、虹川も何気に体育会系だ。
本当に頼もしい。
改めて俺は友達に恵まれている。
「でも」
ふと虹川が残念そうに呟く。
「ここにカオルンもいてくれたらなあ」
「ああ~、確かに」
清野も同意して頷いた。
―――かつて、薫にもファンクラブがあった。
しかもその規模は理央のファンクラブを遥かに上回り、学園外にまで会員がいるほどの熱狂ぶりを博していた。
比率は若干男が多めの男女混合で、年齢層も幅広く、近隣の小中学校、果てやOB、教員までが薫のファンを公言してはばからない始末、最早ご当地アイドルと言っても過言じゃない。
けれどそのファンクラブは薫自身が留学に際して解散を宣言したんだよな。
それでも細々と活動を続けている奴らもいるようだが、そいつらに俺が協力を乞うのはお門違いってものだろう。
「カオルンがファンの皆に投票を頼んでくれたら、完全に健太郎君の圧勝だったよね」
「だね、内輪の組織票は認められているし、まあ審議には掛けられるらしいけど」
「それでも問題ないよ、だって私達、健太郎君を応援したくて投票するんだから!」
「確かに」
「ねえ健太郎君、今回のことってカオルンに伝えたの?」
「いや」
余計な心配をかけたくなくて伝えずにいる。
文化祭に合わせて帰国できるか分からないし、だからって気を揉ませたくもない。
でも改めて考えると、後で知ったら薫は絶対にメチャクチャ怒るよな。
それこそまた殺されかねない勢いで責めに責められるだろう。
うーん、やむを得ない、日が近くなったらそれとなく伝えておくとするか、雷避けだ。
教室に入り、席に着く。
虹川と清野はそれぞれ別の友達に呼ばれて行ってしまった。
「あ、あのっ、健太郎君!」
お、愛原だ。
今朝も小動物みたいで可愛いな。
「おはよう、愛原さん」
「う、うん、おはよう、あのね?」
頬を赤く染め、モジモジして、一生懸命な様子で「頑張って」とだけ告げて去っていく。
わざわざ応援しに来てくれたのか。
皆がくれた激励で胸がいっぱいだ。
この期待に応えるためにも、磐梯との勝負は必ず勝ってみせる。
不意にざわめく周囲の気配に気付いて教室の入り口へ視線を向ける。
理央だ!
―――と、一緒に現れたのは、磐梯!?
「健太郎」
目が合った理央が微笑みながらこっちへやってくる。
けれど磐梯の野郎までついてきた、お前はお呼びじゃねえんだよ。
「やあ、おはよう」
「おはよう理央、今朝も綺麗だな」
「フン、歯の浮くセリフを抜け抜けと」
「うるせえぞ外野、お前こそ目障りだから話しかけるな」
「貴様に礼儀というものを、その身をもって教えてやろう」
「だったらこっちは人への態度ってモンを教えてやるよ」
磐梯と睨み合う脇で、理央がコホンと咳払いした。
「阿男、君こそ健太郎にまだ挨拶もないが、君自身の礼節はどうなっているんだ?」
「ぐッ!?」
ギョッとする磐梯に俺も便乗だ。
「おっとそうだった、悪いな磐梯、おはよう! 今朝も清々しい朝だなあ!」
「貴様ァ!」
唸る野郎をせせら笑うと、理央がハーッとため息を吐く。
面倒をかけて悪いが、こればかりは仕方がない。
「図に乗るなよ、下衆がッ」
「だったら挨拶くらいしろよ、もう一度言ってやろうか? おはよう」
「おのれぇッ」
「やめろ阿男、健太郎もやめてくれ、僕にも周りにも迷惑だ」
むっ、俺まで叱られた。
でも確かに周りも俺達のやり取りを、固唾を飲んで見守っている。一触即発な雰囲気だと思われているかもしれない。
遠巻きにする皆の中から、青ざめた顔のクラス委員長が「せ、静粛にしたまえ!」と必死に声を上げた。
でも直後に磐梯から睨まれて「ひいッ」と竦み上がる。
今のは俺は悪くないんだが、その、すまん。
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俺と転校生の××フラグが立ち過ぎている! 九澄羊 @kusumi_you
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