第13話 虚構と転校生 1

LOOP:3

Round/Unforgiven



『健太郎、僕が、君を王にしてやる』

磐梯から紅薔薇王クリムゾン・キングの冠を賭けて勝負を挑まれた俺に、理央はそう告げたわけだが―――


「大磯くーん!」

「健太郎さまーッ!」


校門を通り過ぎた直後、俺を呼ぶ黄色い声が四方八方から飛び交う。

登校途中で合流した虹川が隣で「うわ、すごいね」なんて目を丸くした。


作業室での一件があった翌日からずっとこの調子だ。

どうやら理央の方で何かしら情報操作を行ったらしく、伝え聞いた内容によると、俺は理央の代理人として磐梯と争うことになっているらしい。

まあ、おおまか間違いではない。

実際は代理人じゃなく、恋敵としてなんだが。

―――ちなみにどんな情報を流したのかと理央に訊いても教えてくれなかった。

『大丈夫』なんて言って微笑む姿にうっかりポーッとなって、ろくに話を聞き出せなかったという背景もある。まったく、理央め。


とにかく彼女達が全力で俺を応援してくれていることだけはひしひしと伝わってくる。

理央のファンクラブ、思いがけず良い子ばかりだ。

まあ基本理念が『美しく麗しい理央さまを愛で鑑賞し、理央さまを推すに相応しい淑女となること』らしいから、さもありなん。

薫のファンクラブもそうだったが、扱いがアイドルに対するそれなんだよな。


「大磯先輩ッ」


数人の下級生が走ってきて俺を取り囲む。

その勢いに圧倒されて後退りした虹川の傍に、朝練終わりらしい清野が寄ってきた。


「応援しています! 理央さまのためにも絶対に紅薔薇王クリムゾン・キングになってくださいね!」

「私も友達に、先輩に投票してってお願いします、だから頑張ってください!」

「絶対に負けないでくださいね、理央さまのためにも!」

「ガンバレガンバレせ~んぱいッ!」


全員で「ガンバレガンバレ!」と身振り手振りをつけつつリズミカルに繰り返す様子が可愛い。

俺のために、いや、理央のために一生懸命だな。

よし、ここは男として、理央の顔を立てるって意味でもビシッと決めなければ。


「有難う」


興奮している彼女達を両手で軽く宥めつつ、余裕めかして笑みを浮かべる。


「理央の、いや、君達の代理人として、必ずや紅薔薇王クリムゾン・キングの栄冠を手にし、理央の尊厳を守ってみせるよ」

「先輩!」

「よろしくお願いします!」

「白百合のお姉さま方も、先輩を名誉会員としてお迎えする用意があると仰っておられました!」


それは初耳だ。

名誉会員、の話をした女の子を他の子達が「それはまだ言っちゃ」「お叱りを受けちゃうよ」と慌ててヒソヒソ窘める。

どうやら極秘情報だったようだな、聞こえなかったフリをしよう。


「あ、あのッ、とにかく私達、先輩を応援します!」

「実は先輩のことを少し誤解していました、でも今は違います、理央さまをよろしくお願いします!」


よろしくお願いします! と全員で同時に頭を下げて、下級生たちは来た時と同じように小走りで去っていく。

―――誤解っていうのは、最近たまに受けていた苦情だろう。

理央と距離が近いとか、馴れ馴れしいだとか、そういうヤツだ。

まあ認められたって意味では有り難い、これからは堂々と理央と一緒にいられるぞ。

ただ名誉会員については、うーん、まあいいか。


理央のファンクラブは全校生徒1/3程の規模を誇る大組織だ。

それがバックについてくれた恩恵は大きい。

残る2/3のうち半数を得られれば俺の勝利は確定する、投票に参加しない奴もいるだろうから実際はもう少しハードルが低いはずだ。


「健太郎君、大変だね」

「まったく、よくやるよ」


虹川が清野と一緒に傍に戻ってきた。


「ねえ、君と紅薔薇王クリムゾン・キングを争うことになったのって、あの転校生の磐梯君だよね?」

「そうそう、磐梯 阿男! 外人みたいな名前だよね、彫りも深いしハーフってヤツ?」

「リン、当たり!」


適当に言ったような清野に、虹川は目を丸くする。

へえ、奴はハーフなのか。


「えっとね、五月女さつきめ君から聞いた話によると」


クラスメイトの五月女は、俺の友達でもある。

趣味が情報収集なんて多少デリカシーに欠ける奴だ。

特に人に関わる情報を好んで集めているが、興味の度が過ぎた結果、知ってはいけない情報にまで触れてしまい、記憶の改ざんを受けている、なんて噂されたりしている。

だが五月女はポリシーとして、集めた情報を絶対に悪用しないと決めているそうだ。

友人としてそこは信用が置ける、悪い奴じゃないんだが若干気持ち悪い、多分変態なんだろう。


「磐梯君って、磐梯グループってお金持ちの御曹司で、お母さんはインドの方なんだって」

「ええッ、ハーフな上に金持ちのボンボンなの!?」

「そう、そしてなんと、天ヶ瀬君の遠縁らしいよ」

「うえーっ! 金持ち繋がりねぇ、健太郎は知ってた?」

「理央の遠縁ってことだけは」


それから、御曹司っぽい雰囲気は初対面の地点で察していた。

胸糞の悪い野郎だが立ち居振る舞いは上品なんだよな、理央と同系統の印象だ。

でも可愛い理央とは似ても似つかないんだけどな!

ハーフのイケメンだからって、そんなものがどうした、俺は理央以外の野郎は眼中にない。

だからどうだっていい、奴は敵だ。


「それから、えーっと、誕生日と血液型は」


教えてくれる虹川には悪いが適当に聞き流す俺と、清野も同じように興味のなさそうな顔をしている。


「なるほどね、つまり健太郎に負けず劣らずのスペックってわけだ」

「健太郎君も磐梯君と同じくらい背が高いよね」

「そういえばさ、ミキって前に、健太郎が俳優のなんちゃらに似てるとか言ってなかったっけ?」

「そ、それは! もう、内緒って言ったでしょ! リン!」


ん?

もしや今、俺はモテているのか?

可愛い女の子にチヤホヤされるのは気分がいい、褒められて嬉しいし、ムフ。


「まったく! 仕方ない!」


そう言って突然清野が俺の背中を容赦なくバーンッと叩いた! いてぇッ!


「私とミキも健太郎に一票入れてやるよ、代わり一つ貸しね?」

「おい、何でそうなる」

「さて何で返してもらおうかな~」

「清野ぉ」

「もう、リンったら」


虹川も呆れてるぞ、ごうつくばりめ。

だが協力者が増えるのは有り難い、今は一票でも多くかき集めたいからな。

貸しも敢えて飲もう、全ては俺と理央の未来のためだ。

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