稲寺音芽と稲寺咲耶という姉妹
うーん……将棋盤の上に投影されているホログラムだからミニチュアサイズでわかりにくいな……そんな私の心を読んだかのタイミングでサイズが大きくなる。だいたい映像の中の私が、私本来の身長の半分くらいになった。2分の1サイズだ。一緒に周囲の建物の透過度や、音関係のバランスも調整してくれたらしい。
「これでわかりやすいかなー?」
「ありがとう」
素直にお礼を言っておく。さて、いったい私の身になにが起きたのやら……見ると決めたのは自分だけど、怖いのも事実だ。やっぱ見ない! そう言いたくなる気持ちを抱えながらも、駅前の商店街を歩く自分と妹の姿を見守る。人が随分と多いのは時間帯? かと思ったけど、単に休日なんだろうね。高校生の咲耶が一緒に居る時点でわかることだ。あ、でも咲耶は平日でも学校休んで私についてくる可能性も否定できないや……。
『音芽もいよいよアイドルとしてステージに立つのかぁ……ちなみに衣装ってどんな感じ? ピンクとかのパステルカラーでフリルいっぱいのフリフリヒラヒラだとマジで受けるんだけど。そしたら写真撮って笑ってあげる』
咲耶が馬鹿にしたような目を私に向けている。私よりも自分の格好を見直したほうがいいんじゃないかな? 薄ピンクを基調としたレースフリルたっぷりの長袖ブラウスの胸元には大きな黒いリボン。下はハートの意匠が多く取り入れられた膝上丈の黒スカート。手に持っているバッグもしっかりとハート型だったりする。仮に私のステージ衣装が「可愛い」に全振りしたモノだとしても、一方的にイジられるのは納得できない。咲耶も私服じゃ同類だと思うんだけど! 少なくとも地雷系ファッションを好んでいる咲耶に、アイドル衣装を笑われる筋合いはないよね!?
……でも、似合ってるんだよなぁ……咲耶の地雷系ファッション。149センチと小柄な身長に、胸元のリボンを押し上げるバストはDカップ。男はもちろん、同性でさえ可愛いと感じる顔立ちは表情が豊かだ。湿度を感じる黒髪ロングも相まって病んでる雰囲気もあるけど、基本的には明るい。ほんと性格さえまともなら自慢の妹だって言えるのに……。ついため息を吐いてしまった。神様から意味深な目を向けられたけどスルーしておく。
『そんなの着るわけないでしょ? 私のキャラじゃ似合わないのわかってるし……いまのとこはって付くけどさ……将来的にはわからないけど……可能なら拒否るつもりよ』
そんな咲耶を睨み返している私はというと、ショート丈のシャツにデニム地のスキニーパンツ。ショルダーバッグ含め全体的にシンプルだ。こうして姉妹で並んでいるのを客観的に見比べると――胸のサイズ差がよくわかる。しかも身長差があるせいでその差がより目立つ。2歳下の咲耶に誰がどう見ても負けている。自分の容姿は気に入っているし、ある程度自信があるけど……胸だけはもう少し……欲しかったなぁ……。しいて言うなら、あとは髪も茶じゃなくて黒がよかったかも……。
『ま、事務所次第ってのはわかったけどね。せいぜいそのときはある程度売れていて意見が通ればいいね? わたしとしては嫌々フリフリヒラヒラを着て恥ずかしがってるお姉ちゃんも見たいけど♡』
言葉の後半は完全に恋する乙女みたいな表情だ。なんちゅうものを姉に向けるのか……本心からだってわかるからこそタチが悪い。私にはそっちの気ないし!
『こういうときだけ甘えた声でお姉ちゃん言うな!』
『じゃあ今日の衣装は露出高い系ってこと? それとも身体のラインを見せびらかす系? どっちにしてもその長い脚は自慢げに出すんでしょ?』
人のこと言えないけど見事な切り替えだと感心してしまう。
『何事もなかったかのように話題戻すわね……あんた……私を何だと思ってんの?』
『猫かぶりアイドル、そんで露出好き』
『別に露出好きじゃないから!』
『いまだってお腹出してるじゃん。それにもう少し暖かくなったらショートパンツ穿いて男に媚びるんでしょ? アイドルなのにナンパ待ち?』
『媚びてない! ナンパとか求めてないし!!』
「ぐ、ぎぃっ」
必死に笑いを噛み殺そうとして失敗したような音が聞こえてきた。発生源は考えるまでもなく神様だ。不敬だと思いつつも睨まずにはいられない。まぁ……神様の言葉通りなら何度もこんなやり取りを繰り返しているみたいだから大丈夫でしょ、きっと。
『妹にもアイドルモードの可愛い声で囁いてくれてもいいんだよ♡お姉ちゃんのASMR希望♡』
媚びてんのはどっちだっての! しかも対象が同性どころか義理の姉って……。
『キモっ』
『えー! 小学生の頃はノリノリでやってくれたのにー!』
ぷくーと頬を膨らませるのもイラッと来る。似合ってるのがイライラポイントだ。
『記憶を捏造すんな! 私と咲耶が姉妹になったの中学生のときでしょうが! 中3と中1!』
改めて聞くと、ほんと酷い会話だ……。こんな喧嘩と思われても仕方ない会話をしているのに、肩が触れ合うような距離感で歩いているのは――確かに見てる分には面白いかもしれない。関係性オタクとかが好きそう。
「仲がいいよねぇー。そこらの実姉妹を超えてるんじゃないかな? 前世では実の姉妹だったけど、その頃とまったく同じだねー」
「……そうなの?」
神様が言うならあり得る。そう思って確認してしまった。
「うん、マジで前世姉妹☆」
「そっすか」
それはもう……面白がってる笑顔だった。絶対に目の前の存在の悪ふざけだわ……。
「ちなみに今世でもいつの間にか縁ができるどころか、義理の姉妹になってたねー。愛の力ってすごいなーて思った」
「え、普通に怖い」
いま身体があれば自分で抱きしめている、そう確信するくらいには怖い。ぶっちゃけスキンシップと称して身体を触られることが多かったけど、身の危険を感じることもあったからね……それこそ将来、彼氏に捧げる前に義妹に奪われそうって悪い予感が頭をよぎる程度には。
「君って女の子好きだし、それはそれでいいんじゃないかなー?」
「待って、私はちゃんと男に興味あるから」
「興味があるだけでしょ? 女の子が寄ってくる体質だし、輪廻を超えてストーカーしてくる妹ちゃんを大切にねー? 病んじゃっても知らないぞ☆」
もう若干病んでるってば!
「愛されてるねー。ある意味、運命を捻じ曲げてる者同士で相性抜群って感じかなー? 身体の相性は内緒にしておくね☆」
そんな危険な相性には触れないからね!?
「……運命ってそう簡単に捻じ曲げられるモノなの?」
「良くも悪くもたまに居るね。姉妹揃っては珍しいけど」
マジトーンで言われてしまった。私が覚えてないとこで迷惑かけてきたんだろうな……なんかごめん。
『うん?』
『咲耶?』
映像の中の空気が変わった。咲耶が何かに気づいたのか背後を振り返る。それにつられて、私も。その視線の先を追ってみる。私たち姉妹から数メートルの場所に明らかな不審人物が居た。
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