更新されない部屋
あまいこしあん
更新されない部屋
その部屋は、深夜になると必ず更新された。
大学時代、私は創作投稿サイトに入り浸っていた。
ある日、ランキングの底のほうに、不自然な作品を見つけた。
タイトルはなく、作者名も「―――」とだけ表示されている。
内容は短い一文だけだった。
きょうも だれも こなかった
誤字も句読点もない。
気味が悪いと思いながらも、なぜか私は翌日もそのページを開いてしまった。
すると、文章が変わっていた。
きょうは ひとり きた
でも みて すぐ かえった
閲覧数は、確かに「1」増えている。
コメント欄は閉鎖されていた。
それからというもの、私は毎晩その作品を確認するようになった。
更新は必ず午前二時ちょうど。
きょうは ながく みてくれた
うれしい
胸の奥がぞわりとした。
私以外に、この作品を読んでいる人がいるのだろうか。
三日後、更新文はこうなっていた。
きょうは ちかくまで きた
でも はいって くれなかった
「近くまで?」
意味がわからない。
その夜、私は部屋のドアの前で、かすかな物音を聞いた。
ノブが、ゆっくり回る音。
息を殺して画面を見ると、ちょうど午前二時だった。
更新される。
きょうは へやに はいれた
ずっと ここに いる
私は慌ててページを閉じた。
ドアの外は静まり返っている。
翌朝、その作品は削除されていた。
存在しなかったかのように、検索にも引っかからない。
だが、それ以来、私の部屋では深夜二時になると、
見えない誰かがキーボードを叩く音がする。
更新は、まだ続いている。
更新されない部屋 あまいこしあん @amai_koshian
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