女の友情の正体

リラックス夢土

第1話



「はぁ……」



 美春みはるは溜め息を吐いた。



「どうしたの? 美春。溜め息なんて吐いちゃって」



 声をかけてきたのは美春の親友の亜衣子あいこだ。

 中学で友達になり高校も同じ学校で高校二年生の今はクラスも一緒の亜衣子は溜め息を吐く美春とは逆に楽しそうな笑顔を浮かべている。



「いや、もうすぐ卒業式のシーズンだなって思って…」


「え? ああ、そうね。でも私たちの高校生活はまだ一年あるじゃない。まぁ、高校三年生なんて大学受験に向けての勉強で遊んでもいられないかもだけどさ」


「確かに私たちはあと一年あるけど…」



 言い淀む美春の様子を見て亜衣子はピンときたようでニヤッと笑う。



「なるほど。美春は彼氏の隆司たかし先輩が卒業しちゃうのが寂しいのね」


「っ! そ、そんな、寂しいと思うほどじゃ…」


「嘘は親友の私には通じないわよ、美春。そりゃ、毎日のように会えていた今までと違って隆司先輩が大学生になったら一緒に下校なんてできなくなるもんね」


「う、うん…」



 亜衣子に自分の心を全て読まれてるいるようで美春は恥ずかしい気分になる。



「隆司はイケメンだから大学に行ってもモテるだろうなって思って…」


「まあ、そうかもしれないけど今は美春の彼氏なんだからいいじゃない」


「うん…」



 亜衣子に励まされながらも美春の不安は尽きない。

 それというのも最近隆司から「卒業記念に美春が欲しい」と身体の関係を迫られているのも美春の溜め息の原因になっている。



(亜衣子にはこんなこと相談できないし…隆司のことは好きだけどやっぱり初めてだから怖いしな…)



 人並みに性に関心があっても処女の美春は隆司と関係を持つのにどうしてもためらってしまう。

 そんなことを考えていると下校時間になった。


 いつもなら隆司と待ち合わせして帰るのだが先程隆司からメールが来て「用事があるから先に帰っていいよ」と書いてあった。

 さらに気落ちしたが仕方がないと美春は一人で帰ることにした。


 すると美春の前に数人の若い男たちが現れた。

 服装から見てまともそうな奴らではない。


 美春は本能的に危険を察して逃げようとした。

 しかし一人の男に腕を掴まれる。



「離して! だ、誰か、たす…うぐぐ!」



 男が美春を背中側から抱き締めるようにして口を手で塞ぐ。

 暴れて逃げようとしても小柄な美春を捕らえているのは身体の大きな男で美春の抵抗は難なく封じられてしまう。



「この女が隆司の女か。なかなか可愛い顔してんじゃん」


「こんな女と俺、ヤリたかったんだよねえ」


「お前は女だったら誰でもいいってこないだ言ってたじゃねえか」


「俺だって好みはあるってことさ。どうせ啼かせるならすぐに股開く女よりこういう初心そうな可愛い子ちゃんの方がいいだろ? ハハハ」


「ハハハ、そいつは違いねえな。あの女みたいに俺たちに頼み事するために自分から股開かれちゃ興奮も半減するしな」



 男たちの下卑た笑いが辺りに響く。



(何なの!? こいつら! 隆司! 助けてぇーっ!!)



 必死になって叫ぶが美春の声は僅かに呻くような声しか出ない。



「それよりさっさと車に乗せろ! この女で間違いないか最終確認するんだから!」


「よっしゃー!」



 美春は男たちの手によって近くのワゴン車へ連れ込まれる。

 その時に美春の両手首には手錠がされ口に猿ぐつわもハメられた。


 美春は恐怖でガタガタ震える。

 一体、何が起こっているのか分からない。


 やがて車がどこかに停車すると後部座席のドアが開き滑り込むように一人の人物が乗り込んできた。

 その人物の顔を見て美春は目を丸くして驚く。その人物は美春の親友の亜衣子だったのだ。



(どうしてここに亜衣子が? 助けに来てくれたの?)



 混乱する頭で事態を理解しようとする美春に亜衣子が話しかけてくる。



「美春。悪いけど今日から隆司先輩は私がもらうから」



(亜衣子…? 何を言ってるの…?)



「あ、その顔はやっぱり分かってなかったか。実は隆司先輩と私って一年前からセフレだったんだよね。でも隆司先輩のこと私も好きでセフレじゃ我慢できなくなったわけ。それで隆司先輩に美春と別れて自分と付き合って欲しいって言ったら美春の方が本命だから無理って言われたんだよね」



(た、隆司と亜衣子が、セ、セフレ!?)



 亜衣子の言葉に美春はショックを隠せない。



「それでもし美春に他に好きな男ができて美春が別れたいって言ってきたらどうするって聞いたらさ。その時は美春のことキッパリ諦めて私と付き合ってもいいと言ってくれたんだ。だから美春には他に男作って隆司先輩と別れてもらうことにしたの」



(そんなの嫌よ! 私には隆司以外に好きな人いないもの!)



 美春は拒絶する意思を伝えるように首を横に振った。

 しかし亜衣子はニヤリと笑う。



「美春に隆司先輩以外に男がいないことは知ってるからさ。私が美春の新しい彼氏候補の男を選んでやったから。それが今、この車に乗ってる男たち。どれでも美春の好みの男を選んでよ。親友の美春が幸せになるように選んだ男たちだからさ。私と美春の「友情の証」を遠慮なく受け取ってね。それじゃあ、私はこれから隆司先輩とホテル行く約束しているから行くね」



(そんな! ま、待ってよ! 亜衣子!)



 亜衣子は車のドアを開けると外に出て行ってしまう。

 その姿を美春は呆然と見つめるしかなかった。



(そんな…隆司も亜衣子も私を裏切っていたなんて…亜衣子を親友だと思っていたのに…)



 美春の瞳から涙が溢れる。

 すると車内にいた男が美春を見た。



「まあ、女の友情なんてこんなもんよ、美春ちゃん。男が絡めば平気で友情より愛情を取るのが「女の友情」ってやつさ。それじゃあ、美春ちゃん。話が終わったところで俺たちの誰を彼氏に選ぶ?」



(絶対、あんたたちなんか、嫌よ!)


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