悪役なはずの黒魔術師は平和好き
ヒロ。
第1話 (暴力表現あり)
ドンッ!!
大きな音が響き、地面が揺れる。
路地裏の地面のコンクリートが凹んでいて、その中心に人が倒れていた。
息はある。
どうやら衝撃で気絶しているだけのようだ。
倒れている人は指名手配犯されている殺人鬼。
指名手配犯が倒されているのは、これで10件目以上だ。
一体誰が殺人鬼を倒したのか。
警察は今も調査中である。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
僕、
八重桜家は昔から、悪い黒魔術師の家系と呼ばれている。
実際、僕の父上と母上は悪い人なんだと思う。
父上は『破壊』、母上は『天災』の能力を使い、街をほぼ壊滅状態にさせた。
おかげで八重桜家は悪評しかない。
僕は『重力』の能力を持って生まれてきた。
本当は優しい父上と母上が、僕は大好きだった。
でも街を壊す理由だけは、わからなかった。
僕は綺麗な夜空を見上げ、すぅ…っと息を吸った。
空気を蹴り、空へと舞い上がる。
僕の住む屋敷のある森から見える真夜中の街は、イルミネーションが光っていて明るかった。
僕は空中を飛び回る。
今日はとにかく暇だった。
街に買い出しに行く必要もないし(そもそもそれはメイドや執事たちの仕事)、指名手配犯は昨日全員倒してしまった。
ふと下に目をやると、ガサガサッという音と共に、黒い影が通り過ぎていった。
人の気配も感じる。
普通の人じゃ聞こえないほどの、かすかな女の子の悲鳴と共に。
なんだか変な予感がした。
僕は空中で一回転して方向転換し、地面へと急降下する。
お気に入りの黒いローブが風で揺れた。
体の周りの重力を無にしているから、落下しても衝撃はない。
そのまま地面に着地し、音がする方へ行ってみた。
木の陰に、黒い服を着た男たちがいる。
気配でもわかるが、多くて10人ほどだろう。
よく見ると、彼らは誰か幼い女の子を抱えている。
女の子の口は布で塞がれていた。
「…名家の幼女だね」
僕は呟いた。
彼女は1度くらいだが、見たことがある。
好奇心旺盛で、いかにも危ない性格だった。
音もなく森を走り抜け、男たちの前に先回りする。
黒い狐のお面を被り、指をぱちん、と鳴らした。
淡く紫色に光る、魔法陣が浮かび上がる。
「っ!?なんだ!?」
慌てている男たちの声。
そりゃあ無理もないよね、急に魔法陣が現れたら。
「こんばんは~。なにしてるの?」
僕は挨拶をし、彼らの前に姿を現す。
ナイフを持った、1人の男が叫んだ。
「誰だテメェ!!」
「君みたいな人間に名乗る必要はないよ」
僕は素早く人差し指を彼に向け、魔法陣を彼の下にワープさせる。
そして、くいっと下に下げた。
ぐんっ
重力が重くなり、彼は地面に叩きつけられた。
ナイフが彼の手から転がり落ち、音をたてる。
「ぐあっ…!!」
男が呻き声をあげた。
彼の仲間たちが、僕に怒りの眼差しを向ける。
「お前、リーダーに何しやがった!?」
「へぇ、この人リーダーなんだ。思ってたより弱いね」
「なんだと!?ふざけた口をききやがって!!」
彼らが武器を持ち、僕に向かってきた。
僕はそれをすべてかわし、彼らの隙間を通って後ろへと走り抜ける。
そこには、彼らが僕に夢中になっているため忘れられた幼女がいた。
「なっ!?しまった…!!」
彼らが僕を追うために振り返るよりも早く、僕は幼女を抱え上げて空へと飛びあがる。
そのまま僕は、能力を先ほどの魔法陣に流し込む。
魔法陣が大きく広がり、男たちの足元を包み込んだ。
僕はそっと幼女の耳をふさぐ。
そして大きく息を吸い、呟いた。
僕の目が、ぼんやりと紫色に光る。
「…【
ドゴンッ!!!
魔法陣の枠内にいる男たちが、全員地面に叩きつけられる。
魔法陣が消えたころには、彼らに動く力はなかった。
僕は浮遊しながら、抱えていた幼女の口に巻かれている布を外した。
「ぷっはあ…はぁ、はぁ…」
幼女の息が荒い。
おそらく限界まで叫んでいたのだろう。
「大丈夫?今、お家まで連れて行ってあげるね」
「あの、私のことを助けてくれたんだよね?ありがとう!」
「どういたしまして」
「おにーさんのお名前、おしえて」
「僕?僕は……」
言っていいか、迷った。
人間の世界では、僕は悪者だからだ。
でも彼女の眼差しはまっすぐだった。
「八重桜 ノア、だよ」
「ノアおにーさん!」
そう呼ぶ彼女は、にっこりと笑っている。
彼女の笑顔は、真夜中の真っ暗な空を明るくしてしまいそうなくらい、可愛かった。
僕が彼女を家に送り届けるまでの間、彼女は家での生活について色々話してくれた。
メイドさんの作る料理が美味しいんだとか、
母上と父上が優しいんだとか、
飼っている犬と小鳥が可愛くて大好きなんだとか。
聞いているだけで、こっちまでにっこりしてしまいそうだった。
彼女の家に着くと、彼女は笑顔でインターホンを押した。
出てきたメイドは、彼女を見るなり抱きしめていた。
彼女の母上と父上も、嬉しそうな顔をしていたのだろう。
僕はそれを、空中から眺めていた。
その時、幼女の元気な声が聞こえた。
「私ね、ノアおにーさんに助けてもらったの!」
「ノアお兄さん?誰かな?」
「八重桜ノアって言ってた!すごくいいおにーさんだったよ」
「八重桜…?八重桜家ってあの黒魔術師の?危ないじゃない!」
「なんで?ノアおにーさん、わるい人たちを倒して私をここまで連れてきてくれたんだよ!わるくいわないで!」
「あら、そうなの?」
「ほんとだもん!ノアおにーさん、こっちきてー!」
僕はそのまま帰るつもりだったが、そっと彼女の横に降り立った。
「八重桜ノア様、この度は娘を助けてくださってありがとうございました」
彼女の母上は僕に深々とお辞儀をした。
とても礼儀の正しい人なんだな、と思いつつ、僕はそっとお辞儀を返した。
「いえ、ちょうど彼女を見かけたもので。僕はこれで失礼しますね」
これ以上長居はしたくなかった。
自分の噂が広まることを避けたかったから。
僕は空へと舞い上がり、彼女たちの前から姿を消した。
屋敷と帰り、鍵を開けて屋敷に入る。
普通を装っているが、足取りがおぼつかない。
先ほどの男たちの残りを1発で黙らせるために魔力を使いすぎてしまったようだ。
部屋に入り、ドアを閉める。
お面を外し、ベッドの傍に置いた。
今日はいいことしたかな。
暇潰しもできたし。
なんてことを思ってベッドに潜り込んだ。
5分もする前に、僕の意識は闇に沈んでいった。
悪役なはずの黒魔術師は平和好き ヒロ。 @hiro_0001
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