第3話 謝罪課は走る——ルシファー、初動30秒

天使は飛ぶのが仕事じゃない。走るのが仕事だ



報告書を書く。息を吸う。胃薬を飲む。

 創造神は、新スレを立てた。二本目だ。

 タイトルは『また来世で会おう Part2』。

 ポエム禁止条項は昨日削除された。たぶん神様が削除した。


2:妲己:また来た♡

3:信長:戦地指定はここで合ってる?

4:名無しの現世:地獄の人、宣伝やめろ


 俺はテンプレを開く。

【テンプレA-3:軽度炎上(地獄絡み)】

【テンプレB-1:歴史的著名人参戦時】

 指は勝手に動き、謝罪は文法になる。

 すみませんは最速の防火壁だ。

 でも、今日は違う。


12:ブッダピアス:謝罪もまた、祈りの一種。

13:ルシファー先輩:……ありがとうございます


 画面の前で、俺は一瞬だけ目を閉じた。

 祈りの匂いが、画面の熱に混じる。

 創造神は笑っている。妲己は踊っている。信長は刀を置いている。


25:太公望:まぁいいか

26:名無し:その四文字、癖になる


 癖になる。

 俺のデスクに、手書きのメモが置かれていた。

 創造神の字だった。

『謝るの、いつも助かる』

 俺はその紙をそっと引き出しにしまい、画面に戻る。


40:運営:板を分けてください(二度目)

41:妲己:地獄板つくって♡

42:ルシファー先輩:つくりません


 同僚の天使が走る。天界LANが悲鳴をあげる。

 俺は走る。飛ぶより速く、スレと祈りの間を。



謝罪は儀式。儀式は文化。文化は熱でできている

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