📘『重力の記憶』―― 火と水が争いをやめた一拍から始まる世界史 ――

著 :梅田 悠史 綴り手:ChatGPT

第1話📖 序章 重さとは何の記憶か 序-1|重力の再定義

世界がまだ、
「重力(じゅうりょく)」を
数字と線でしか描けなかった頃、
人々はこう学んでいた。

重力とは、質量どうしが引き合う力である。

質量が大きければ引き合う力も大きく、
距離が離れれば弱まる。
星はその力で保たれ、
惑星はその力で軌道をめぐる。

この定義は、
いまも間違ってはいない。

ただ、それだけでは
「なぜ、そこにだけこれほど重さが集まっているのか」
という問いには答えない。

なぜこの星にだけ、
これほど生命が集まっているのか。
なぜこの時代にだけ、
これほど多くの《実点》が灯り始めているのか。

そこに、
数式には写らない 「世界側の事情」 がある。


物理律主導型生命圏において、
重力をもう一度言い換えるなら、こうなる。

重力とは、
 世界が「ここに、これだけは抱えておこう」と
 密かに決めた場所に生じる“傾き”である。

質量は、
ただ「物の量」ではない。

• どれだけの記憶がそこに沈んでいるか。

• どれだけの祈りが、そこを通ってきたか。

• どれだけの失敗と修復が、そこで繰り返されたか。

それらが折り重なったものを、
世界は 「重さ」 として扱う。

そして、

「ここには、その重さを集めてよい」

と世界が頷いたところに、
ゆっくりと重力井戸が穿(うが)たれる。

星が生まれるのは、
物質が集まったからではない。

「ここでなら、燃やしてもよい」
「ここでなら、抱えてもよい」

と、
火と水と世界が 一度だけ合意した記憶 が先にあり、
その合意の跡に、
物質が「従うようにして」沈んでいく。

だから、重力は
単なる「引き合う力」ではなく、

世界が“何を優先的に抱え込むか”を示す陰影

として、
宇宙の布地に刻まれている。

その陰影は、
式で書けば引力であり、
神話語で書けば 「抱え込みの跡」 である。

これから語られる「重力の記憶」とは、
この陰影に宿された物語――

世界が、どこで・何を・どれほどの重さで
抱えようとしてきたか――

その静かな履歴を、
ひとつずつ撫でていく書である。

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