魔女狩り ――沈黙が罪とされた時代

春秋花壇

魔女狩り ――沈黙が罪とされた時代

魔女狩り ――沈黙が罪とされた時代


声を出さなかった

それだけだった


泣かなかった

怒らなかった

言い返さなかった


沈黙は

潔白の証ではなく

罪の形をしていた


神の名は

刃よりも軽く

炎よりも早く

人の口から落ちた


「これは正義だ」

そう言う声ほど

耳をふさいでいた


水は問う

沈めば無実

浮かべば死


――選択肢は

最初から

与えられていなかった


剃られたのは

毛ではない

尊厳だった


刺されたのは

皮膚ではない

生きてきた時間だった


ほくろ

あざ

古傷


生の履歴は

すべて

悪魔の印に翻訳された


自白は

嘘ではなかった


それは

休息だった

拷問の合間の

沈黙だった


「そう言えば終わる」

その知恵だけが

許された


火は

罪を焼かなかった

真実も焼かなかった


焼いたのは

問いだった


「なぜ?」

という言葉だけが

最初に灰になった


群衆は

優しかった

敬虔だった

家族思いだった


だから

疑わなかった


善意は

ときどき

最も冷たい顔をする


やがて

魔女はいなくなった


裁判も

杭も

火も


だが

沈黙の理由は

誰にも問われなかった


名前は

墓にも残らず

記録にも薄く

歴史の余白に

押し込まれた


それでも


沈黙は

間違っていなかった


間違っていたのは

沈黙を

罪と呼んだ

時代だった


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