大門
命野糸水
大門
【第1話】
塾からの帰り道、小腹が空いていた俺は近くのコンビニに立ち寄ることにした。扉の前に立ち取っ手を内側に引っ張り扉を開けた。早く自動ドアに変えればええのに。このコンビニを訪れるたびにそう思う。
中に入ってまずパンコーナーに向かった。パンコーナーには様々な種類の菓子パンや惣菜パンが置いてあった。
ただ、夜遅い時間ということもありいつも食べている焼きそばパンが売っていなかった。もしも売っていたら俺は迷わずにそれを手にとってレジに向かっていただろう。売り切れで残念である。
次におにぎりコーナーに向かった。初めからおにぎりを買う予定はない。もしかしたら新しい種類のおにぎりが見つかるかもしれない。目に止まるおにぎりがあるかもしれないという薄い期待を抱え訪れたが予想通り買う気になれなかった。
菓子コーナーにも足を運んだが、この時間にお菓子は無いなと思った。食べたところで腹を満たせない。
いろいろ考えて迷った挙句俺はレジ前にある唐揚げを買うことにした。戸棚から唐揚げを取り出して近くにあるセロハンテープで蓋を閉めた。
レジに持っていきバーコード決済で会計をすることを店員に伝えた。その時ふと店員がつけている名札が目に入った。名札には大門と書かれていた。
ある医療系のドラマ以外俺は大門という名字の人を見たことがなかった。この人も失敗しないのかな。そんなわけないか。
もしも失敗したら大門だろ、失敗するなよなんてからかわれたりしてるのかななんて思いながら俺は大門さんから唐揚げとレシートを受け取った。
【第2話】
塾からの帰り道、小腹が空いていた俺は近くのコンビニに立ち寄ることにした。扉の前に立ち取っ手を内側に引っ張り扉を開けた。
このコンビニは多くのコンビニで採用されている自動ドアを使ってない。昔ながらと言ったら失礼かもしれないが手動ドアである。
手動ドアの良い点は停電時でも開け閉め可能ということだろうか。ても開け閉めするたびに客は腕の力を使わなければならない。早く自動ドアに変えればええのに。このコンビニを訪れるたびにそう思う。
俺は買うものをすでに決めていた。レジ前にある肉まんである。俺はどこの棚にも寄らずにまっすぐレジに並んだ。
「肉まんください」
「かしこまりました」
店員はそういうと肉まんが置いてあるケースの扉を開けて肉まんを取り出した。レジで何かのボタンを数回押し金額を伝える。
肉まんには他の商品についているバーコードがない。バーコードがないものはレジ内にある何かのボタンを押して金額を出すのだろう。俺はその仕組みを知らない。
指定された金額を出してレシートをもらう。その時俺は店員の名札に少し目がいった。名札には大門と書かれていた。
大門といえば東京都港区浜松町にある駅である。大門駅には都営地下鉄浅草線と都営地下鉄大江戸線が通っている。住所に浜松町とあるように大門駅の近くにはJRの浜松町駅もある。
大門駅は昔東京タワーを見に行った時に使ったことがある。
久々に行こうかな。俺はそう思いながら左手に肉まんを持った状態で右手で扉を開けて外に出た。肉まんは美味しかった。
【第3話】
散歩の帰り道タバコを切らしていたことを思い出したワシはコンビニに立ち寄ることにした。ワシは扉の前に立ち取っ手を内側に引っ張り扉を開けた。
このコンビニ多くのコンビニで採用されている自動ドアを使っていない。手動ドアである。手動ドアでも昔は不便とは思わなかった。
なんせワシがまだ子供の時は自動ドアなんてなかったから。手動ドアが当たり前の時代だった。自動ドアが日本に普及し出したのはワシが成人してすぐぐらいだったはずだ。
今はどこのコンビニも自動ドアである。数年前までは自動でも手動でも別にどちらでもいいと思っていたが今は自動がいい。
このところ腕の力が弱ってきていて開けるのに一苦労だ。早く自動ドアに変えてくれ。このコンビニを訪れるたびにそう思う。
店内に入り一応他に買いたくなるものがあるか見て回ったが残念ながらなかった。ワシは手ぶらでレジに向かった。レジの若い女性にタバコを注文する。店員がタバコについているバーコードにスキャナーをかざす。
「画面のボタンを押してください」
店員はそういうと画面を指差した。最近のコンビニはどこでもこれだ。タバコや酒を買う際に年齢確認のボタンを押さなければならない。みて分かるだろう。
こんな白髪だらけでヨボヨボの老人みたいな20歳以下のやつなんてどこにいるんだ。確認するだけ無駄でありいらん作業だ。
ワシはボタンを押して目線を店員に合わせてタバコを受け取った。その時店員の名札が見えた。名札には大門と書かれていた。
大門といえば西部警察の大門である。もう少し詳しくいうならば西武警察署部長刑事の大門圭介である。
渡哲也が演じていた。銃の腕前は凄腕だった。彼は最終的にはテロリストとの死闘の末殉職してしまう。
西武警察か久しぶりに見ようかな。近所のレンタルビデオ屋にあるかな。ワシはタバコを胸ポケットにしまいコンビニを出た。
【第4話】
塾からの帰り道、夜のお供が切れていたことを思い出した俺はコンビニに立ち寄ることにした。
俺は入り口の前でドアが開くのを待った。ドアが開かないなとおもった数秒後、俺はなぜドアが開かないのか、その理由に気づいた。
このコンビニのドアは自動ドアではなく手動である。そのため立ち止まっていてもドアは開かないのだ。俺はドアの取っ手を内側に引っ張ってドアを開けた。
俺は店内を一通り回った。夜のお供は買うことは決めていたが、ついでに夕食や朝食も買っておいた方がいいのではないかと思ったからだ。
パンコーナーから朝食用にピザパンをとり、おかずコーナーからサラダを取り、おにぎりコーナーから鮭おにぎりを取った。その後レジ前に行き夜のお供であるエナジードリンクを取ってレジに向かった。
レジには若い女性の店員がいた。俺はその店員に商品を渡した。お支払い方法について聞かれた俺はバーコード決済でと答えその店員に自分のスマホを見せた。
そのときチラッと店員がつけている名札も文字が見えた。その名札には大門と書かれていた。
大門か。あー、俺はここでも試験から逃げることは出来ないのか。俺は少しガッカリした。
塾、いや予備校の自習室を借りて今日も勉強した。この後家でも勉強する。睡眠時間を削り、そのために今エナジードリンクを買っている。
塾から家までのこの帰宅中。そこだけは勉強から離れたかったのに。俺はここでも大門、大問1や2を想像させる言葉によって勉強から逃げられないなんて。短い時間でいいから現実逃避させてくれ。
俺は商品を手提げ鞄に入れ暗い気持ちで店を出た。勉強のやる気はない。しかし帰ってからもしなければならないのだ。
【第5話】
駅からの帰り道、私は特に用もなしにコンビニを訪れた。このコンビニには来たことがある。
来るたびに思うことだが、このコンビニは自動ドアではなく手動である。内側に引っ張って開けるタイプの手動ドアである。早く自動ドアにしてくれよと思う。
と思うと同時に出来ない理由があるのではないかと考えた。予算の問題か、自動ドアをつけるための大きさが今の入り口とされている場所に足りないとか。
まさか自動ドア反対の票が入っているのか?いや、そんなことはないか。私は今日も内側にドアを引っ張ってドアを開けた。
とりあえず一周した後に私はレジ前に置いてある唐揚げを買うことにした。私は手ぶらでレジに向かった。
「唐揚げ一つください」
私はレジにいる若い女性の店員に告げた。はい、かしこまりましたという声と共に店員は唐揚げを取り出して渡した。電子決済アプリで会計したいことを伝えてその店員が私のスマホのバーコードを読み取った。
その時店員の名札が見えた。そこには大門と書かれていた。
大門という言葉を見て私は6年間通っていた小学校を思い出した。私が通っていた小学校は大門小学校という。
私が通う大門小学校は東京都の横の県にあった。以前この話を大学で話したら自分も大門小学校ですという人に出会ったことがある。
話を聞くとその人は私とは別の大門小学校に通っていた。その小学校は千葉県と関東の3位争いを行なっている県にあると言っていた。
小学校か、懐かしいな。廃校になったという便りがないからまだあるのだろう。今度許可を取っていこうかな。店を出て唐揚げを食べながら私は懐かしい気持ちになった。
大門 命野糸水 @meiyashisui
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