事故死したので異世界に転移しますが、管理者のミスなのでアメリカの店ごと持っていくことにしました
だいきち
第1話:前フリってないんだね…
見渡す限り白い空間。
自分の手を見ようとするが、体がある認識が無い。
手も武器も見えない。
画面だけが動く、一昔前のFPSの様だ。
うーん、これって「白い部屋」ってやつじゃないの?
トラックに跳ねられていないし、通り魔から誰も助けてないし、
社畜で過労でも、猫も助けてないけど白い部屋ナンデ?!
「マツシタブンペイさん」
お、なんだ?
はーい、ブンペイはここです、と手を振った気分だけ出す。
「マツシタさんとお呼びすれば?」
「あ、ブンペイで良いですよ?」
「この度はご迷惑をおかけしました」
「えーと、何のことでしょうか」
「私たちの通信に使っている高次エネルギーが、ブンペイさんに当たりまして。お亡くなりに……」
「あー、白い部屋だなとは思ったんですよ。
今時は前フリもなく死ぬんですね。
待てよ、僕はなんでこんなに落ち着いてる?」
「一応、精神に安定は掛けさせてもらってるんですよ」
「なるほどなるほど。
それで僕はどうなるんです?」
「通常であれば亡くなられた場合、脊椎動物のどれかに輪廻転生する予定です。
ですが今回は、こちらの不手際もありますので、特別に異世界転移も選んでいただけます」
「うーん、地球に戻れたりは?」
「それですと脊椎動物のどれかですね。
おすすめは魚類です。次の輪廻までのサイクルが早いですから」
「いや、そのままの体に帰れたりは……」
「ブンペイさんの体は修復したうえで異世界にありますので、それは無理ですね」
「あー、分かりました。
異世界転移します。させていただきます!」
俺はこうして、ほぼ選択の余地なく異世界に転移することに。
どんな所かも分からず、このまま転移したら非常に危険だ。
俺は、何やら作業している『存在』に、おそるおそる声をかけた。
「あの、質問良いですか?」
「あ、はい。良いですよ」
「異世界って危ないですかね。魔物とかいます?」
「いえ。
元々地球のテストケースとして作った世界でして、今は使用済みで無管理です。
重力、時間、暦は地球と同じ。
魔法はありますが、攻撃できるほどのものはありません」
「動物もほぼ地球と同じですね。
熊や豹といった猛獣はいますよ」
「……じゃあ、なんで使用済みなんです?」
「魔法が中途半端に便利すぎましてね。
水や火や灯りが簡単に出せると、魔法も科学も進まなくなる。
停滞して、観察する意味がなくなったんです」
「ちなみに地球は?」
「素晴らしいですよ。
人口肥料で無理やり支えた人口、思想や宗教や皮膚の色での殺し合い。
近いうちに十億単位で死者が出るでしょう。
研究者は皆、地球を狙っています」
「……じゃあ僕の事故って」
「だからです。
普通は謝罪などしません。
ただ、地球人を殺めたとなると、研究から外されかねませんから」
「偶々遭ってしまって、本人が自分から
死ぬ“転生”ではなく、生きる“転移”を望んだ。
それだけですよ」
「それではそろそろ……」
「あ、もう一つ良いですか?」
「……なんですか?」
「よくある異世界ものの、
言語理解とか、鑑定とか、収納とかは貰えませんか?」
「地球にはそんなものがあるんですか。
まあ未管理の世界ですし、良いでしょう」
「あと、地球の物を買えたりしませんか?
魔法も使いたいので魔力も……」
「地球の物は面倒ですね。
あなたがいた店ごと持って行ってください。
使った分は補充しておきます」
「魔法は向こうに行けば分かりますよ。
魔力は周囲から好きなだけ使ってください」
「ありがとうございます!」
「ああ、使用済みの世界です。
殺戮しても、国を作っても、干渉はしません。
それではお元気で」
――――
ブンペイが目覚めると、店のソファーだった。
「おおっ……店だけど、随分きれいだな」
店内のすべてが新品だった。
とりあえず周囲を確認する。
事務所から銃を取り、弾を込めて店に出る。
誰の気配もない。
ボブ爺さんの家も空で、建物も家電も新品だった。
裏手へ向かう途中、敷地の境界に
薄いオレンジ色の揺らぎが見えた。
越えた瞬間、湿気と虫と動物の気配が襲ってくる。
慌てて戻ると、再び無音の世界。
「……敷地内はセーフゾーン、か」
そう思った途端、強い疲労が押し寄せた。
まだ安心はできない。
ブンペイは飲料水とエナジーバーで簡単に食事を済ませ、
事務所のセーフルームに入る。
銃を抱いたまま、横になる。
「ここなら安心だよ、お休みパトラッシュ……」
事故死したので異世界に転移しますが、管理者のミスなのでアメリカの店ごと持っていくことにしました だいきち @atusi4353
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