つらづれなるままの書き物

鈴響聖夜

仲間

息が上がってしまった。


「もう無理だ」


足を止めて振り返ってみると、どれだけ走ってきたかがわかる。


それと同時に。


たとえ自分が足を止めても、なんの問題もないような顔で世界は回ってる、って事にも気付く。


ふと隣の走路トラックを見てみれば、ずっと後ろを走ってる走者ランナーが米粒みたいに見える。


「まだ大丈夫、最後尾じゃない」


そんな風に思って甘える日々。


じゃあ反対隣はどうか?


「もう、見えもしないじゃないか」


「良かった。多分自分は優秀な方なんだ。」


そう信じられた。


しかしよく目を凝らせば、きっと気付く。


その走路には、自分が足を止めてる時点まで、ずっと等間隔の足跡が残ってるってことに。


慌てて前を向き直せば。


足を止めなければもしかすると、追い付けたかもしれない距離に『君』の背中が見える。


そうじゃないか、ずっと手を取り合って、ここまで走ってきたんだよ。


なのに自分から手を振り払って、疲れたって止まったんだ。


君の心配そうな、悲しそうな顔を思い出せるだろう?


まだ間に合う、きっとまだ許してくれる。


でも、そうじゃなかったら?


またそう自分に甘える自分に、俺は言わなくちゃいけない。


「うるせえ、走れ。いつまで息が上がったフリしてんだ」


「血を吐いてでも、あいつの隣で笑ってる時がいちばん楽しいんだろ」


「だから頑張れるって、お前は、自分は、気付いてんだろ」


また自分は走り出す。


君と見ていた未来ではなく自分が、大切だと信じてやまない--


君のもとへ。

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つらづれなるままの書き物 鈴響聖夜 @seiya-writer

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