承認欲求モンスター俺、悪の大組織を配信中に壊滅させた結果、メチャクチャ狙われる身になってしまう(*美少女からも!?)

枝栗実

第1話

 貧しい家庭で産まれた私達姉弟は、生活に苦しみながらも幸せな日々を送っていた。


「おかーさーん!あたしのおよーふくちゃんとうれたよー!!」


「ありがとねぇ、そのお金は花子が稼いだお金なんだから、好きなもんでも買ってきなぁ」


「うんわかったー!ほらいくよはるた!」


「うん!」


 なけなしのお金を握りしめ、弟と共に街へと繰り出す。

 寂れた公園、シャッターだらけの商店街、近所の家から聞こえる賑やかな電子音。

 住み慣れたこの街が私達にとって唯一の世界であり、普通そのものであった。




「おかーさん!はいこれあげる!はるたといっしょにえらんだの!!」


「おかーさんあげるー!」


 私達の手には赤いカーネーションが握られており、突き抜ける香りが六畳間に清涼感を加える。


「まぁっ、良いのかい・・・・・・?」


「うん!おかーさんいつもありがとう!!」


「ありがとう!!」


「うぅっ、こちらこそありがとうだよぉっ・・・・・・花子も春太も本当にっ・・・・・・!」


 真の幸福とはこういうことを指し示す言葉なのだろう。

 三人で抱き合うと、母と春太の温もりが身体中にじんわり伝わっていき、心が満たされていくのを感じる。

 今の暮らしのままでいい、ただこんな時間が永遠に続いてさえくれれば。

 そう私達は思っていた。

 



◇《視点変更:???→主人公》




 この世界には呪力、そして呪術といったものが存在する。


 転生した俺を出迎えたのは、呪霊と呼ばれる化け物が徘徊し、呪術師がそれに対抗する日本。


 宮古蓮馬みやこれんまという名を授かった俺は、極めて珍しい『特異呪術持ち』だったようだ。


 ギフテッドである俺は当然周囲から煽てられながら幼少期を過ごし、ちょっぴり・・・・・・いや、かなり浮かれていた。


 なんせ前世では考えられない程、今世では恵まれていたんだ。

 顔面偏差値が高く、学力も呪術の才能もあり、可愛い女の子に囲まれだってする。


 もっと称賛されたい、チヤホヤされたい、欲を言えばハーレムを・・・・・・なんて思ったこともあった。


 ───あの事件が起こるまでは。




 あれから三年、遠方の高校へと進学した俺は、周囲とのコミュニケーションを避け、既視感しかない陰キャライフを送っていた。


 事件の報道の際、少年法によって実名が伏せられていたのが幸いして、かつての俺を知る者はここにはいない。


 辛くないと言えば嘘になるが、慣れ親しんだことなので耐えることはできる。




 ほとんど一言も発さずに帰り、一人暮らしのアパートの扉を開ける。


 軽食を済ませ、黒い装束に身を包んだ俺は、無人の部屋に語りかけた。


「ユウリ、今日の報告は?」


『赦願組の残党が北春町にアジトを移設、周辺地域から十数名の子供を誘拐し、第二級呪霊を受肉させる準備を行なっています。詳しい位置情報はこちらに』


「わかった」


 霊界の存在である呪霊は通常、現世の物体に干渉することができず、その逆も然り。

 その間を取り持つのが呪力と呼ばれるエネルギーであり、呪霊や呪術師はそれを利用して互いの世界に干渉し合っている。


「ユウリ、ほら、今日の報酬だ」


『これは・・・・・・!ヤジロベーカリーのクリームパン!それも三十食限定の!?・・・・・・本当に宜しいのですかマイマスター』


「後で感想教えろよ?俺も味が気になってるんだ」


『承知しました。感謝の念を込め、後ほどレポートにまとめさせていただきます』


 ユウリはかつて存在自体が危うい雑魚呪霊だったのだが、俺が契約して力を与えてからは、優秀な諜報役を担ってくれている。


 彼女は特に食べることが好きな大食いである。

 こうやって美味いもんを食わせてやると、物凄く感謝してくれるから、自分で食うよりも気分が良い。


「さて、行くぞ、ユウリ」


『えぇ、マイマスター』


 そう言うとユウリは、俺の影の中へと沈んでいった。




 闇夜に紛れてビルの屋上を駆け抜ける。


 雨に打たれたコンクリートの冷たさが靴を経て足に伝わるが、それを遥かに上回る興奮が熱気と化して身体を動かす。


 ふと地上を見ると数台のパトカーが行き交っており、事の重大さがわかる。

 しかしこれは呪術犯罪、並の警官では相手にならないだろう。




 あっという間に目的地へ着いた俺は、一瞬の内に見張りに着いていた二人を気絶させ、配信用ドローンを起動する。

 中に入ってからでないと、住所を特定して凸るバカが出てくるからな。


-うわでた

-こんばんは

-処刑の時間と聞いて

-ここどこ?

-ヒャッハー!!

-待ってた


 固定ファン達が疎らなコメントをログに残していく。


「敵は誘拐犯、子供を助ける、モザイクあり」


-おけ

-モザイクあり了解

-流石に子供はね

-ちゃんと配慮できててえらい

-ヒャッハー!!

-とっとと誘拐犯懲らしめてもろて


 簡潔に今日の内容を伝えた俺は、右手に呪力を込め、放棄された建物の奥へと進んでいく。




◇《視点変更:レンマ→???》




 雨音が冷たく響き渡り、薄暗い建物の中はより一層、重く苦しい緊張感が張り詰める。


「おいテメェらまだやってんのか!!!」


 屈強なヤクザの怒鳴り声が耳を揺らし、子分と思われる数名の男が作業の手を早める。


 地面に描かれているのは歪な方陣。

 線という線が奇妙な言語を形作り、未完成であるにも関わらず悍ましい気配が伝わってくる。


 隣で横たわる春太は未だに目覚めない。

 怒り狂ったヤクザの蹴りを顔面に受けてからはずっとそのままだった。

 もう助からないのではないか、そんな不吉な考えが思い浮かんでしまい、息が詰まる。


 いつの間にか涙が再び湧き出てくる。

 今にも漏れ出そうな声を必死に抑え、唇に触れた涙を飲み込む。

 後ろ手に縛られているせいで拭うことさえできないのだ。


「アッ、アニキ!!儀式の準備が完了したっス!!!」


「おっせぇんだよボケがっ!!!さっさとガキどもを供えろ!!いいな!!!!」


「はっ、ハイっす!!!」


 周囲にいた子供達が順番に方陣へと投げ込まれていく。

 乱雑にぶつかった彼らの身体からは、骨の軋むような音が聞こえるが、それを意にも介さずに作業を続ける男達。


 八名程が方陣内に積み重なり、遂に男達の手が春太へと伸びる。


「・・・・・・っ!まっ、待って」


「る"っせぇんだよ!!!!」


「っぷ」


 腹部に鋭い蹴りが入り、胃の内容物が口の中まで込み上がる。


 過呼吸になった口から吐瀉物が漏れ、滴り落ちたそれは洋服を汚す。


「きったねぇなぁ!」


 襟首を掴まれ、ゴミを捨てる時のように子供の山へと放り込まれる。

 両足が繋がれているために逃げ出すこともできず、必死にもがく子供の足が顔面にぶつかる。


「ぅわぁぁああん!」

「ままぁぁぁああ!」

「ひぐっ、うぅっ!」

「ょるしみぬんでッ!」

「う"あ"ぁ"ぁ"あ"ん"!」


 子供達の悲鳴が耳をつんざく。

 もはやヤクザ達の怒鳴り声すら聞こえない程に大きくなったそれは、不安と混乱でパンクした脳を揺らし、恐怖心を増幅させる。

 流されて泣き出しそうになるが、視界に映った春太の姿を見て唇を噛み締める。


 春太に不安気な姿を見せるわけにはいかない。

 お姉ちゃんとして、春太を守り抜くと誓ったんだから。


「おいゴルァア!!!黙らんかいガキ共ォ!!!!!」


 ヤクザの恐喝によって場に静寂が訪れる。

 皆の注目が彼に集まり、続いてその右手に握られたある物に気がつく。


 赤いプラスチックの容器をとぷんと満たすそれは、嗅いだことのある独特な悪臭を放っていた。


 彼の足が子供を踏みしめ、その液体───灯油が山の上から注がれていく。


 灯油が髪を濡らして瞼へとかかる。

 咄嗟に目を瞑るが呼吸のために開いた口の中へと入り込み、ざらざらとした不快感が口いっぱいに広がる。


 ぼっという音と共に、彼の持つライターの火が点けられたのだと気づく。




 ───あぁ、間も無く燃やされて死ぬのだろう。


「うぅ、お母さぁん・・・・・・」


 こんなあたしを産んで、そして育ててくれてありがとう。

 そして、春太を最後まで守れなくて本当にごめんなさい。

 先に春太とお父さんの所へ行くね。




 そうあたしが心の中で思った時。


 ───ドガァン!!!


「どーも、母と子の、愛と絆を守る男でーす。子供達のお迎えに上がりましたー」


 壮気な男の声と共に、部屋の扉が勢いよく開いたのであった。

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