第4話 傷
予定通り、ダンジョンへ出発した。
「……連携の経験がないので、戦闘は別々でもいいですか」
「分かった。俺も一人で戦う方が得意だしな」
序盤は、何事もなく進んでいった。
問題が発生したのは25階層での通路。
また一体敵を倒したときだ。
視界の端で何かが動いた気がした。
それを目で追うと、ヴァイスの背後から魔物が現れ、彼に遠距離攻撃をしようとしているところだった。
それも、即効性の毒のある攻撃を。
しかし、彼は気づいていない。
目の前の沢山の敵を倒すのに集中しているようだ。
詠唱していては間に合わない。
無詠唱魔法なら間に合う。
──だが、これは使えない。
集中しているから、この魔法に気付かれないだろうか。
いや、不確定すぎる。
彼との距離が近い。
魔物の攻撃の前に追いつける距離。
「……ッ」
身体で攻撃を受け止めた。
少し呼吸が乱れる。
……痛いな。
以前ならこの痛みが怖くて、無詠唱魔法を使っていたかもしれない。
お腹から痛みを感じながらも、遠距離攻撃をしてきた魔物を魔法で倒す。
そのあとは、彼の背後から魔法を魔物に当てて援護をした。
痛いし視界はぼやけるが、敵の大まかな位置程度は分かる。
治療はまだ出来ない。
詠唱が必要なら、敵がいる中で回復はしてはいけない。
失敗したことがある。
違和感を感じたのか、途中から彼は倒す速度が早くなった。
全ての魔物を倒し終わる。
これでようやく治せるようになった。
「急に、どうし──!」
怪我に気づいたらしい。
「……すまない。俺を庇ったんだな」
庇ったつもりはない。
「……庇ったつもりはありません。効率が良かっただけです」
毒消しの魔法と傷を治す魔法をかけた。
もちろん、詠唱して。
本当に無詠唱魔法が使えないのは不便だ。
「毒入りだったのか」
自分は耐えられる類いの物だが、彼が耐えられるかは知らない。
「……そうですね」
「苦しかったよな。すまない」
何故、謝る?
「……慣れているので」
それよりも、早く攻略に進みたいのだが。
「……行かないんですか」
「ルネが平気なら」
「……平気なので進みましょう」
30階層まで進んで休んだ。
あの後、彼は後ろからの攻撃に気づかないという場面はなくなった。
トラップにも一度も引っかかってない。
気づいていないと考えたことは確かにあったが、
攻撃が当たる前に必ず避け、反撃していた。
「大丈夫だ。気付いている」
反撃が終わった後、そう言ってくる。
意味が分からない。
だが気付いているならそれでいい。
こちらの手間が省ける。
そうして攻略が進み、遂に50階層に到着した。
大きな扉の向こうから普通の魔物よりもかなり禍々しい気配を感じる。
魔力も普通の魔物どころかボスより大きい。
自分たちは扉を少しだけ開けて中を覗いた。
今回のボスはキマイラらしい。
ほんの少し凶暴化状態になっている。
これを倒せば今回の依頼は終わりだ。
でも一つおかしい点がある。
ボス以外の魔物もいることだ。
本来ダンジョンには、ボス部屋にはボスしかいないはずなのに。
理由は分からない。
とりあえず攻略することだけを考えよう。
「……あなたを援護しながら、他の魔物を倒します」
「ありがとう。ボス退治に専念できる」
役割が決まった。
扉の向こうに入り戦闘を開始する。
しばらくは順調だった。
魔物が残り三体になったところで、それは起こる。
二体の魔物が強い魔力反応を示した。
──次の瞬間、その二体は自滅。
直後、膝を地面につかなければならないほど重力が重くなった。
そして、魔法も使えなくなった。
……重力魔法と魔法封じか。
これでは剣を振るうどころか持つこともできない。
立つことすら不可能だ。
それに残りの一体は既に自分へ攻撃態勢に入っている。
これは死ぬな……
失敗した。
17歳に戻れるだけ、まだ良い方か。
魔物の攻撃が前に迫ってきている。
どうせ避けられない。
──!
目の前にヴァイスが現れた。
「……っ」
攻撃を身体に受けたが、
即座に手に持っている剣を振り魔物を倒す。
その途端、身体が軽くなり元の状態に戻った。
何でボスと戦っていたはずの彼がここに。
それより今のうちに彼を治しておかないと。
傷を残したままボスと戦うと更に傷が増える一方だ。
それは、自分にとって無駄な魔力消費になる。
傷を治した。
「ありがとう」
「……ボスを倒しましょう」
キマイラがこちらに近づいてきている。
「そうだな」
そのあと、自分たちはボスを倒した。
「……先程はありがとうございました。非効率な選択をしなくて済みました」
礼を言った後、帰るために来た道を歩き始めた。
####
非効率……?
それは一体どういう意味だ?
尋ねようとしたが、ルネは先に進み始めている。
聞ける雰囲気ではない。
それにしても、さっきは間に合って良かった。
もし助けられなかったらと思うとゾッとする。
ルネが急に膝から崩れ落ちたのは驚いたが、
キマイラを押しのけ、すぐに身体で庇った。
あと少しでルネが死ぬところだった。
本当にルネは、一体何者だ?
普通あんな状態になったら、是が非でも生き延びようと藻掻くはず。
なのに少しもそんな態度を見せなかった。
それに俺のことを庇ったときも、効率が良いと言っていた。
ルネの中では、
効率か非効率か、それが全てなのか……?
──彼は、彼女が人生をやり直していることをまだ知らない。
月夜の魔術師──やり直し10回目の魔女は、魔王を倒してもまだ旅に出られない 月雨 @tukiame11
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