月夜の魔術師──やり直し10回目の魔女は、魔王を倒してもまだ旅に出られない
月雨
第1話 月夜の魔術師
やり直し10度目。
この人生で、ようやく魔王を倒せた。
今度こそ旅に出るはずだったのに。
現実はダンジョンの奥で、身体強化を使いながら剣を振るっている真っ只中だ。
「ギャーー!」
耳を劈くような大きな断末魔が響き渡り、
斬り伏せた魔物が、血の海に落ちる。
それを前にしても、血の匂いがするだけで何も感じない。
……いや、感じないようにしている。
それを悪いと思ったことはない。
直後、今のが最後の一体だったらしく、この広間に張られていた結界が消えた。
思いの外、時間がかかってしまった。
近道としてここに入ったのに、トラップに嵌まるとは……
初めての場所だ。こういうこともあるだろう。
──戦う少し前。
広間を抜けようとした瞬間、出入り口に結界が張られてしまった。
それだけではない。
この空間を埋め尽くすほどの大量の魔物達が突如現れてしまった。
余計な労力を使いたくない。
一番は転移魔法だが、ここはダンジョン。使えない。
──死のうか。
駄目だ、辞めよう。 割に合わない。
確かに死は選択肢の一つだ。
でも、今するのは効率が悪い。
結界を破ろう。
そう判断し、攻撃するが全く手応えがない。
結局、全ての魔物と戦うことになってしまった。
何も上手くいかないな。
外が夜中になる前に、目的地に行かないといけないのに。
とりあえず、進まないと。
ここから去る途中、遠くから声が聞こえた気がした。
気のせいだとは思うが。
####
ダンジョンのとある場所で、悲痛な叫び声が上がる。
「何だよ、あれ……!」
「あんなの聞いてない……!」
魔法使いは杖を握る腕が震え、
その前にいる剣士は剣の切っ先が定まらない。
「お前ら逃げるぞ!」
こう呼びかけたのは彼らのリーダー。
その声が聞こえた瞬間、すぐに駆け出し逃げようとする。
しかし、それに気付いた魔物達が回り込み、逃げ道を塞いでしまった。
「お前ら備えろ!」
三人は覚悟して身構える。
「……死にたくない」
非情にも、魔物達は飛びかかるようにして彼らに襲いかかる。
「「ギーー!」」
誰もが諦めかけた
──その刹那、魔法が飛んできて、それらを一瞬で灰と化した。
呆然としながらも魔法が放たれた方向を見ると、
ローブを着た一人の人物がいる。
だが認識した瞬間、跡形もなく消えてしまった。
しばらくして我に返った冒険者達は話し出す。
「……助かっ、た…のか…?」
「その、ようだ、な」
彼らの視線は、まだその人物がいたところを向いている。
誰かが呟いた。
「……『月夜の魔術師』……」
「「 ! 」」
月夜の魔術師──
月の夜に現れることが多く、魔法を使って助けてくれると言われている。
真っ黒なローブで全身を隠しており、顔もフードを被っていて分からない。
性別、年齢不明の謎に包まれた冒険者だ。
この人物が通った跡には魔物の死体はないが、生存者だけが残る。
これだけは確かだ。
「実在するんだな……」
####
「くしゅん」
くしゃみが出た。
また誰かが自分の妙な噂でも話しているのだろうか。
そういえばさっき魔物に囲まれている冒険者達がいたな。
通路を通ろうとしたら、彼らどころか魔物も道を妨げていた。
一体でも残して、一人でも死んだら、
自分の定めたルールに反する。
これは、避けなければならない。
だから魔物を全て一掃して通ってきたが……
手柄を横取りされたと思っただろうか。
それが原因で、後で絡まれるのはかなり厄介だな。
魔法で記憶を消しておけばよかった。
しかし、今更戻るのは無駄だな。
放っておこう。
時間がない。
もう、夜になってしまった。
早く予定を取り戻さないと。
──これは、効率を重視する魔女が、
黒幕に気付いたせいで、まだ旅に出られない物語。
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