白い家の子どもたち

久遠 燦

第1話

今週の日曜日、家に夕食を食べにおいで!家族が沢山増えたんだよ。と親友のユキちゃんに誘われた。

隣に立っている女の子たちは、ユキちゃんのお家に最近養子に来た子達。


「兄妹、羨ましいなぁ、私はいないから」


と私が言うと、ユキちゃんは、「さくらちゃんも私の家族になればいいのに。兄妹いっぱいで毎日楽しいよ。」と言って微笑んだ。



日曜の夕方。汽車に乗って一駅。ユキちゃん家の最寄りの駅に着いた。青々とした木々に挟まれた坂道を上り、庭付きの3階建ての白い家に着く。


家に着くと、白い服を来た子供たちが12人。月明かりに照らされて、白いワンピースはレースのよう。

一列に並んでいる子供達の視線が一斉に私に向いた。人形のようなまん丸の目が私をじっと観察している。

ユキちゃんのお母さんが養子をもらったのはしってたけど、2人だけだって聞いてた。こんなに増えたんだ。


みんなで遊んでいる間も、子供たちの視線は一瞬も私から離れなかった。


鬼ごっこをすると、全員が私を囲むように動き、笑い声はあるのに、一人一人の表情は固いままだった。


「ご飯ができたよ、おいで」と呼ばれ、テーブルに座る。少ない料理に混じった小魚の目が、光を受けて白く輝く皿の上でじっとこちらを見つめていた。

子供たちが一斉に歌を歌いだした。

私は戸惑いながらも合わせる。言葉の意味はわからなかった。

初めて聞く、不思議なメロディの歌だった。


あっ…


ガタン


机の上に無数に置いてあった白い塔のような置物のひとつが、私の肘にぶつかって倒れてしまった。


ユキちゃんのお母さんが血相を変えて机に頭を打ちつけ、涙を流しながら謝罪の言葉を繰り返す。その様子に、私はあいた口が塞がらなかった。


「わざとじゃなかったんです。ごめんなさい。」咄嗟にそう呟いた。


「もう二度とこのような行為はうちではさせませんからお許し下さい。」


ユキちゃんのお母さんは、机の真ん中にある一番背の高い塔のようなものに向かって、何度も何度も謝った。


その塔のような置物は、私が倒したものよりずっと古びており、表面に無数の小さな傷のようなものが刻まれているように見えた。

それがかすかに揺れて月明かりを反射し、まるで生きているみたいで、背筋がゾッとした。


少し時間が経って帰る時間になると、ユキちゃんのお母さんから、「またいらっしゃいね」と言われた。


「また来なよ。」そう言って、子供たち12人が私に笑いかけた。


「うちの子になってもいいのよ。私はもっと沢山の子供に囲まれたいの。あなたのお母さん、最近病気になったんでしょ?」ユキちゃんのお母さんが私に語りかける。


なんで知ってるんだろう。私のお母さんが病気なことは、ユキちゃんに言っていないのに。


月明かりの中、坂を下る。振り返ると、玄関の白い門の前に、ユキちゃんとその家族が1列に並んで立っており、笑ってこちらに向かって手を振っている。夜風に吹かれて、着ている白いワンピースがゆらゆらと揺れていた。

月明かりに浮かぶ家のシルエットを見て、私は心がザワザワした。

なんだか急に寒くなって、急いで坂をおり、明かりがついた無人の駅で、汽車を待つ。



今日は授業参観だけど、お母さんは入院中だし、お父さんはお母さんの事で具合が悪くなって寝込んでる。だから私の家族は来ない。


「あなたのスピーチ、とっても良かった。お母さん感動しちゃった。お母さんとして誇らしいわ。」授業後、ユキちゃんのお母さんに後ろから肩を叩かれた。


「私ね、あなたのお母さんと話し合ったの。子供は、やっぱり、家族が揃ってる環境で育つべきだって。あなたのお母さん、病気で入院中でしょ?

だから私があなたの新しいお母さんになることになったのよ。」と言った。


「私がお姉ちゃんね」「私は妹」「私も妹」

ユキちゃんと、ユキちゃんの家に養子に来た女の子達が、私の席まで来て、ニコニコ笑っている。


「コレ、あなたにも着てもらうわ。決まっている事だから今すぐ着替えなさい。貴方の荷物は既にお家に運んであるから安心してね。」

ユキちゃんのお母さんが、白いワンピースを差し出して、笑った。



「ごめんね…さくら…帰ろう…」

白い門の前に、40代くらいの知らない女の人が立っていて、私の名前を呼んでいた。


「ごめんね…ごめんね…ごめんね…さくら…」


ピシャリと鋭い音が聞こえた。

帰ってきたお母さんが、その女の人の頬を手で叩いたのが見える。


「さくらちゃん、みんなが揃う時間だよ、行こう」

後ろからユキちゃんの声がした。


「うん!」


沢山の兄妹たちと一緒に、私は白い屋根の家の中へと入っていった。

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白い家の子どもたち 久遠 燦 @Milai_777

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