ライトブリンガー~世界を滅ぼした悪堕ち変身ヒロインの元カレだった未来の僕が憑依してきたので二人の「僕」でハッピーエンドを目指します~

@west_heat

第一章: ライトブリンガー

プロローグ: 悪夢~最悪の未来~

空気が熱い。呼吸するだけで肺が焼けそうだと感じさせるくらいに。


倒壊した建造物の群れ、赤く燃える大地。そして……瓦礫に混じって散乱する、かつて人だったモノの残骸。

生ものを焼いたような不快な焦げ臭さに加え金属臭やイオン臭までもがあたりに漂う。人間にとっては、本当にここに居たくなくない、と思わせるのに十分な惨状だろう、これだけでも。


空を覆いつくしているのも絶望そのものだった。小型のドローン程度のものから空母や戦艦と言っていいほどの巨体まで様々な無数の飛翔体によって埋め尽くされている。そこから絶え間ない光の筋が降り続ける。強力な破壊光線が地を焼き、投下される爆弾の雨が、命も、モノも、全てを吹き飛ばしていく。


焦土と化した大地を侵略者……いや、破壊者達が進軍していく。僅かに残った人々の抵抗―――涙ぐましい威力の銃弾など僅かな障害にもならない。

銃弾の雨を浴びながら悠然と、整然と突き進む戦闘ロボットの群れは、そんな人間達の無力をあざ笑うかのように、遥かに強力な銃砲撃の雨によって殲滅する。獣がベースになっていると思しき怪物の群れは、銃弾など掠りもしないほどの俊敏さで駆け、その爪で引き裂き、その牙で食らい、命を奪っていく。


「そう、無に帰すのよ。全て、何もかも…ね」

それらを従え、笑いを含んだ声で命を与えるように1人の異形が宙に浮かんでいる。身に纏う装い――黒い妖艶なドレスの上に部分的な甲冑を纏っている――だけでも底冷えするような不気味さを感じさせたが、生気のない暗い青色の肌と、さらには光を吸い込むような黒い眼球の上に張り付く赤い瞳が、”それ”が明らかに人間ではない"何か"である証と言える。

特に異様なのは、背の左側、片方からのみ伸びて双翼足りえていない3枚の翼だった。鳥の翼が巨大化したような、堕天使を思わせる翼が1枚。蝙蝠の翼から発展したような悪魔を思わせる翼が1枚。そして金属と機械で構成されたようなユニットから噴出される不定形の闇の翼が1枚。それら3枚の翼が作り出すアンバランスなシルエットは、この世界の崩壊の象徴にも等しい。



侵略者で埋め尽くされたその空に向けて光の奔流が放たれる。白いスパークを纏った黄金の濁流は、太く、真っ直ぐに、光り輝く川の様に空を切り裂いた。

無数の黒い点の群れ――面を形作っていたドローンは、光に触れずしてその周辺に伝播する熱とエネルギーの余波を受けただけで爆散し、雨のように墜落していく。

無数の筋となって空を走っていた戦闘艇は光に飲み込まれ一瞬にして跡形もなく消滅した。

そしてドローンや戦闘艇の母艦、幾重にも折り重なって空一面に広がる円盤の中腹が光によって貫かれる。一隻を貫いただけでは光は止まらずにその奥に重なる円盤をも貫き、そのまま凪ぐようにして軌道を扇状に振りながら、二隻、三隻と爆ぜさせていった。光に貫かれた円盤は内側から爆ぜて、闇の粒子と共に爆風と炎を散らす。

その破壊エネルギーの残滓が生み出した白金のプラズマの球体がその場に鎮座して、踏み込んだ戦闘艇やドローンを二次的、三次的に爆炎へと変え続ける。

そんな奔流が轟音と共に二度、三度と放たれ、空がなぎ払われていく。黒い占拠物達は次々と消滅し、爆炎を吹き上げながら墜落しながら無数の白金の光を咲かせ続け、次第に空は晴れていった。


焦土の上に絶え間なく光の弾が撃ちこまれ続けていく。荒れ果てた地上を支配し疾走する獣達は、拳の形をした光の塊によって、次々と灼かれ、押し潰され、跳ね飛ばされる。

群れを成して疾風のように駆ける狼のような魔獣も、それより何周りもの大きな体を宙に浮かせて獅子の胴体から生やした翼を羽ばたかせ空を行くキメラも、巨体で地を揺らしながら突き進む恐竜のような魔獣も。例外なく、光の拳の弾丸を受けて闇の粒子へと帰っていく。

そこからさらに続けざまに、巨大な光の衝撃波が一面を刈り取っていった。三日月状の鋭い光は獣も、機械も、触れるもの全てを切り裂く。破壊光線を放っていた人型の殺戮ロボットも、鋼の巨体を4脚で支えた異様の重装型も、ホバーシステムを唸らせて駆ける高速型の戦闘兵器も、全てが上下真っ二つに分かたれる。拳の弾丸と同じく光波の刃も、無数に放たれ続けて地上の侵略者を次々と駆逐していった。

さらには、高速で回転する光輪が空気を鋭く切り裂く音を響かせながら場に投げ込まれる。人ひとり分ほどの半径で回転するそれは、自らが意志を持って動いてるかのように縦横無尽にあたり一面を駆け巡り、今までの攻撃を逃れた敵を、獣だろうがメカだろうが構わずに切り刻みながら疾駆する。ロボットが打ち出す弾丸やレーザー、ミサイルも、キメラが発する雷や恐竜が吐く炎をものともせずに全て切り裂きながら、この場の動くもの全てを消し去っていくかのように。


その真っ只中に黄金に輝く何かが轟音と共に、荒れ果てた大地に到達、いや激突した。人の輪郭を持ったそれは黄金の鎧を纏った騎士のようでもあった。光を反射して金色に輝いているのではなく全身から強力な光を放っている。全身に纏った鎧のような姿の中でも、翼のように広がり張り出した肩、手首から肘までを守る細めの盾の様にも見える装甲、上に突き出した膝、そして頭の側面から伸びる羽のようなパーツが特に力強く、勇壮な印象を与える。何より特徴的なのは、背の右側から伸びた黄金の翼、幾重にも折り重なって機械のようにも鋼のようにも見える3枚のそれは、激しい閃光を翼のような形に放出していた。

自らに向かって迫り―――いや、"戻ってきた"光輪に手を伸ばして掴み取ればそれは両端から光の刃を伸ばした双刃の剣と化す。それを携え、なおも湧き出て迫り来る敵の群れに向けて黄金の騎士は飛び込んでいった。


回転する双刃が突撃する敵の群れを次々と切り捨てていく、懐に入ろうとする敵を打ち込まれる無数の拳圧が吹っ飛ばし打ち抜く。

地が砕けるほどの踏み込みで跳躍し、雷と炎弾の嵐、無数のレーザーと弾丸、ミサイルの雨をかわせば、双刃を分解させた二振りの光剣を振るい、光の衝撃波で触れるもの全てを両断。再突撃、振るわれる牙や爪、ブレードアームを掻い潜って二本の剣閃を軽やかに舞わせて、敵の大小問わずに断っていく。

なおも向かってくる破壊の光条を避けようともせずに光の刃を振るい破壊光線と火炎弾を切り払う。剣閃が発生させた光波は、そのまま攻撃を放った恐竜と重装ロボを無に返していた。



だが、これで終わりではない。黄金の騎士は顔を上げ、上空より見下ろす破壊の女神に視線を向ける。拳を握り締めて……細かい表情の表れない"顔"が、それをはっきりとにらめつけていた。


「今更ノコノコと……。どこまでも遅いのね、愚図。」

一声だけで聞くものを凍てつかせるような冷たい声を悪魔が発する。紫色の唇を歪めながら。最初は感情のみえない無表情、だけどせせら笑うような酷薄な表情を浮かべて……

「結局間に合わない、誰一人守れない、何一つ救えない。所詮それがお前の精一杯」

手を開く。虚空に身の丈を越える長さの漆黒の槍が出現する。

「もういい加減に終わらせる。この世界を滅ぼすよりも先に、お前という卑しい存在を。私の中から消えるべき忌まわしい廃棄物を、消し去ってあげる」


冷酷な宣言と共に悪魔が槍を振るう。穂先の闇が巨大な闇の波動を形成し黄金の騎士へ向けて飛ぶ。先ほど彼が放ったものとは比べ物にならない大きさだ。黄金の騎士は折り重ねた背の翼を前面に跳ね上げて先端から光の奔流――先ほど巨大円盤を容易く屠った砲撃だ――を放つ。

波動と奔流はぶつかり合う。一瞬のスパークを発生させた後に、力を減らした光は細い光条となって悪魔に迫り、激突点を消失させた闇は2つに分かたれて地に落ち、地盤ごと消滅させる結果となった。

翼を再度背に展開、光を噴出させて、闇の波動に空いた"穴"めがけて黄金の騎士は飛翔する。光の残滓を切り払った悪魔の一瞬を付いて距離を詰めた。互いの顔が間近に見える近さ。槍よりも光剣の方が有利な間合い。引く悪魔を追うように突進しながら二本の光剣をあらゆる軌道で振るい、剣閃を走らせる。左右薙ぎ、袈裟、逆袈裟、円の軌道……悪魔は柄を短く握った槍によっていくらかを弾き、いなすが何発かは"入って"いる。悪魔の鎧に、ドレスに、光の傷が入っていく。

けれどそこまでだった。悪魔が突き出した掌が放つ圧力によって突進の勢いが一瞬殺される。ほんの僅かに開く間合い。悪魔の、槍の距離だ。今度は先ほどのお返しとばかりに豪雨のような勢いの突きが黄金の騎士を襲う、2刀によってどうにか軌道を逸らし、遮り、或いはその身を反らして避けるが完全には避けきれない。黄金の鎧に何本もの闇の傷が走っていく。

不利な膠着の中、黄金の騎士が✕の字に交差させた光剣の交差点から強烈な閃光が発される。一瞬、視界を奪われた悪魔の動きが鈍る。黄金の騎士は急加速、その隙を突いて距離を詰めた――ように見せかけて、悪魔の横を通り過ぎ、その背後を取った。無防備な背を目掛け、輝く二つの刃を交差させる軌道で振り下ろす。が―――

悪魔は全身をねじり、体の軸はそのままに回転させて、すさまじい遠心力を載せた横薙ぎの一撃を"さっきまでの真後ろ"に叩き込む。

攻撃態勢に入っていた黄金の騎士は避けられない。咄嗟に刃を交差させて防御の体勢に入ったが勢いを受け止めきれず、そのまま弾丸のように大地に叩きつけられ轟音と噴煙が巻き起こった。


「遅くて誰の役にも立たない上、何年経っても小賢しくて姑息な真似しかできない。……本当につまらない存在ね、お前は。……そう思わない?『開斗くん』」

笑みのない、心底不機嫌そうな顔を真下のクレーターの中心部に向けて悪魔は吐き捨てる。酷薄な言葉を向けられた黄金の騎士は、埋め込まれた大地のクレーターより脱し翔ぶ。お互いさほどダメージを受けた様子も見せずに、再度。対峙した。





そして、何時間、何日、何年、何回戦い続けただろうか。その果てに―――


ぐしゃり、と生々しい音と感触が伝わる。僕の手は……肉と臓を貫いていた。黄金の輝きを放つその腕が貫いているのは"あの悪魔"の胸。肌も、目も、人ではないモノに変わっているけれど、その顔つきは僕の知っている"誰か"の面影を確かに残していた。そこ浮かぶ表情に驚愕の色はない、けど、僕の事を見つめながら笑っているようにも、悲しんで泣き出しそうになっているようにも見えて―――。程なくして、貫かれた穴を起点に彼女の体が闇の粒子となって分解され、消失していった。悲しくて、悔しくて。本当に、何もかもが失われた……そんな気がした。


遥か彼方の海と空を見つめる。小さな虫の羽音も、草木の息吹の欠片さえない。最愛の人も、大勢の守るべき人々も、倒すべき敵さえもこの世界にはない。もはや、ほんの僅かな命の営みさえもこの世界には存在しない。この、地にも、海にも、空にも……僕以外のあらゆる生命はこの世界から完全に滅びさった。


『負けたんだ。"俺"は』

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