AI文字起こしについての私感

 


【2010年06月22日(火)Web日記からの転載部分】


 最近(でもないけど)わかったこと。


 私の仕事は、前にも何度も何度も書いたとおり、テープ反訳(起こし)ですが、 テープといっても今は音源はディジタル音声が主流ですし、テープで依頼されたものもUSBメモリに録音して、私感で再生用のソフトを使って作業をしています。


 この再生ソフトの便利なところは、イコライザーを使ってより聞き取りやすい状態に調整したり、再生スピードを変えたりできるところです。

 といっても、結局もとの録音状態が悪いと、上記のいずれの機能もなーんも役に立ちゃせんのです。高音域も低音域もへったくれもなく、雑音がひどい状態でマイクも使わず録ったものが聞き取りにくいのは当たり前としても、ぐじゅぐじゅっと言葉を濁すように言っている言葉は、別に早口だから聞き取れない、とかではなくて、もう、再生速度を半分にしたとしても、「速度50%のぐじゅぐじゅ」でしかないのです。


【2025年11月2日 補足】


 さて、15年経った今も基本的に同じような仕事をしていますが、ここ何年か案件として増えてきた作業として、「AIで書き起こしたものを修正する」というのがあります。


 正直最初のうちは、「なんだかなあ」と思いつつやっていました。

 結局は人の手による修正が必要になるんだから、最初から人間に任せておければ、入力・修正(整文と見直し)、何なら要約も一遍にできるのにとか、二度手間お疲れさんという感じで。 

 AIによる要約というのもありますが、あれはあれでちゃんと読むと、あまり重要とは思えない部分をやたらトピックとして強調していたり、堂々と正反対のことが書いてあったりと、全く油断ならないものです。


 私自身はAIによる書き起こしも要約も使った経験がないのですが、「資料」としていただく書き起こし(または要約)テキストを見る限り、ソフトやサービスによって精度や得意分野などに差が出てしまうものなのでしょうかね。

 また、YouTubeの自動文字起こしをぼんやり眺めていると、何度出てきても正確に聞き取れない単語があったり、だんだん聞き取れるようになる様子が分かったりで、「あぶなっかしい足取りの幼稚園児の徒競走」を見守っている気分になります。


 これは老害人間の傲慢さかもしれませんが、「自動文字起こしなんて、機能としてまだまだだね」と高をくくっていた頃(5年くらい前?)からすると、大分歩み寄っていると自負しています。


 私は30年以上前から書き起こしの仕事をしてきたのですが、正直当時から、「そのうち自動で書き起こす機能が出てきたら、この仕事は全く無意味になる」と言う人もいましたし、10年くらい前だと、「今どき人手で書き起こしする必要ある?」と嘲笑されることすらありました。


 本当にそこまで進歩が見込まれていたものなら、例えば21世紀に入るころには雲散霧消していてもおかしくなかったのでは?と言いたくなります。

 だって、いわば「聞く→書く」の単純作業ですよ。素人考えベースでも、いかにも「できそう」じゃありませんか。

 実際、良好な条件が整ってさえいれば、かなりの精度でできているようですが、それは「AIに合わせて人間が話す」という、本末転倒な状態であるともいえます。


 現実の人間の話は、早口で音がつぶれる、方言も略語も話す、文尾を濁す・ぼかす(だから前後の文脈から補わざるを得ない)、アクセントが常に正しいとは限らない、固有名詞は星の数ほど――です。


 私は聞き取り中に迷うたび、言われたことを書き起こせるAIがうらやましいと思ったこともありますが、なんのなんの、当然のように聞き間違えるし、認識できない箇所は平気で飛ばすし。だからこそ人手での修正作業が増えており、「ちゃんと仕事せえ」と思う回数も増えました。


 「本当にすごい領域まで到達したなあ」と実感する頃には、私は大分高齢でな状態になっているか、この世にもういないかでしょう。今は開き直って、ちょっと上から目線で「お、少しは成長したな?」などと楽しみたいところです。


 それはそれとして、固有名詞(特に人名・地名)に適当な漢字を当てるのは何とかならんでしょうかね。出るたびに表記が違ったり、同じ言葉として認識できなかったのか、全く別物みたいに出てきたり、なかなかやっかいです。


 AIのようにずーっと等倍速で書き起こせる「人間」は存在しないでしょうが、固有名詞に限らず、ある程度頻度の高い言葉は辞書登録して手数を減らしてスピードアップするといった工夫は、書き起こし作業者なら誰でもしていることです。


 人手の作業って、そういうところが「捨てたもんじゃない」と思います。

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