日本人形のお初

シヨダ

第1話:私はお初

「お初、クッキーとお煎餅、どっちがいい?」

--うーん、お煎餅かな。

「そうね、お煎餅にしましょう」

不思議なもので、お初が思ったことは大抵の場合、由美子さんに伝わるの。


ちゃぶ台の上には、お初のための椅子が置かれている。お初の足元にある木製の小皿に、お煎餅がカラカラと投入された。由美子さんは一枚だけ摘んで口に入れた。三時になると、この皿にはお菓子が注がれる。

由美子さんが摘み食いするのはいつも決まって一つだけ。残りは全部、健太郎くんの分。そして、それを決めるのはお初の役目。


--由美子さんはね、お茶を飲む時も、世界中の美術館を案内する番組や、列車の窓から見える風景が流れる番組を見る時にも、私を抱くの。


この家に来たのは一年前。骨董品が所狭しと詰められた埃まみれの店には年老いたお翁さんがいて、古風な抱き人形をまじまじと見つめてくる不審な人たちが稀にいたのよ。物色するように私の体を上下左右に揺らしたわ。彼らが私を触る時、とっても怯えちゃった。ああ、早く離してって、いつも思ってた。

そんなある日ね、由美子さんが現れたの。私と同じ衣を着ていて、美しかった。箱みたいな小棚の上で綿埃の付いた私の為に、しゃがみ込んでくれた。目を合わせて、温かい両手で抱き上げてくれた。


私、由美子さんの側にいたいと思った。そしたらね、伝わったんだ。


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