君と僕
@Dzhsz
君と僕
”プシュー ギギッ、ガコン“
そんな機械音と共に目が覚める。
「うわっ、さぶ。」
「おはようごザいます。」
考える間も無く機械的なそれが喋る。
「動揺なさルかと思いますが、お聞き下サい、只今西暦4140年の12月18日デス。そしてあなたがコールドスリープなさっていル間に未知の感染症が流行して全人類が滅亡しましタ。」
人間、本当に驚くと声も出ないというのはこの事だ。
「混乱サせてしまって申し訳ありまセん。私の名前はヘルツ、人型ヒューマノイド13世代改訂版です。あなたの名前を伺っテも?」
コールドスリープを決めた時から未来がどうであろうが気にしないつもりだったが、さすがにくるものがある。
「岸恵介、33歳、生まれは2025年、ははっ、コールドスリープもダメだな。ごめんなぁ、こんな人間が最後の人類で。」
「そんな御自分を必要以上に卑下しないデ良いのデスよ。」
「ヒューマノイドさんは人間と違って優しいなぁ。そんな中大変忍びないのですが……、生き残れるんですかね?荒廃しちゃってるんですよね?世界。ウイルスとか大丈夫なんですか?」
「はい、ウイルスが検知されなくなったのデあなたを起こさセテ頂きましたが。快適な衣食住は私が保証いたします。取り敢えず私が拠点にしテいる場所までご案内しますね。」
「あー、ありがとうございます。」
「それと、服って貰えたりします?」
それから何日か歩いた。この何日かの間に大体地球がどうなったのかいやでも分からさせられた。もう日本なんてただの森だし、あちこちにあるビルの残骸のようなものでさえ、今は亡きヒューマノイドが建てたらしい。ヘルツのことも色々分かってきた。抑揚がちょっとおかしかったり、発音もカタコトだったり、まぁ、それが気にならないくらい他のことは何でもできる。
それから世界にたった2人の生活が始まった
「そういえば何故ケイスケはコールドスリープをしたのデスか?」
「おー、聞いちゃうかぁ、いやね、自分結構頑張って生きてたんだけどさぁ、疲れちゃって、まぁろくでなしになっちまったんよ。毎日酒とタバコ。ははっ。そんでちょうどコールドスリープがあったらさ、やるでしょ。また酒さえ飲めたらって思ってたけどそれももう叶わないなぁ。」
そんなどうしようもない身の上を話してたら涙が溢れた。自分でも何で泣いてるかさえ分からない、ただただ胸の奥が熱かった。
「そうだったのデスね。気が至らずすみませんデした。」
「謝らないでくれよ、それで何で俺なんか起こしてくれたんだ?」
話題を変えるようにそう聞いた。
「コールドスリープする方は未来に何かを期待しテいるとそう思いました。例えこんな未来であろうと、生きるために眠ったのなら、死ぬ為にこの選択をしたわけではないのなら、起こすべきだと判断したからデス。」
自分は逃げるように眠った。朝が来なくて良いように、頑張ることを先送りにする為に、そんな自分ごと包むようなその返答にまた自然と涙が溢れた。
初めてヘルツと出会ってから一ヶ月ほどが過ぎた。
今日ヘルツは畑を見に行っている。どうやら自分を起こす1年ほど前から畑を始めてくれていたらしい。至れり尽くせりで何だか忍びない。というか、ロボットが何でも身の回りのことをやってくれないかなぁなんて未来に賭けていたのがこんな形で叶ってしまい何ともいえない気持ちだ。
「せめて今日くらい自分で料理するか。」
いつも食卓は1人だった。ヘルツに食事は必要無いけれど、いつも一緒に席に着いてくれる。誰かと食べる飯はこんなにも美味いのかと日々感じている。何でも出来るヒューマノイドにとっては自分ができることなんて微々たるものだが、自己満でもやらないよりはやるが吉。
が、それから5時間以上経ってもアレンは帰ってこなかった。
気がついた頃には豪雨の中を駆け出していた。
雷が鳴り響き、傘すらないこの4140年を人間が耐えるなんて到底無理な話。空が不気味に音を立てたと思ったら頭上から特大の稲妻が落ちてきた。目を見開いたその時には突き飛ばされ、地面に体を打ちつけていた。そして目の前には雷に打たれて煙を上げる、ヘルツの姿があった。
その日は厚い雷雲に覆われて、雷だけが不気味なほどに駆け抜けていた。
ヘルツを連れて帰り体を拭いてやった。目の前が深海に沈む。
今元通りにしてやるからな。
自分は元はそこそこ名の知れたエンジニアだった。色々あって全部投げ出した。もう数年いや何千年ぶりに機械に触れる。それからは食べることも忘れるほどに、手を尽くした。
何日、寝てないだろうか。もう打つ手がなくなり、ただ祈ることしかできない。横たわるヘルツを前にしてただ手を握ることしかできなかった。
「ごめんな。」
頬を涙が伝う。
「恵介?」
そんな温もりのこもった声で目を覚ます。どうやら眠ってしまったらしい。
「助けてくれてありがとうございます。」
よかった。
ヘルツをそっと抱き寄せる。あぁ、機械はこんなにも温かいんだな。
目から無数の涙がこぼれ落ちる。人生で初めて嬉し泣きをした。
それから好きなこと、嫌いなこと、今まで聞けずにいたこと、沢山沢山話した。
「なんか前より人間ぽくなったな。抑揚も上手くなってるし、てか敬語やめよう。対等だからな。」
「そうだね。なんか胸の辺りの靄が晴れた気がするわ。雷に打たれたお陰だね。っはっは。」
「いや、皮肉かて。」
でも本当にヘルツは人間らしくなっていた。相変わらず何でも出来るし、何でもわかる。でも、言葉に表せない何かが変わった気がする。
そんな事があってから一年という年月が過ぎた。
そして今猛烈に悩んでいる事がある。
どうやら自分はヒューマノイドを愛してしまったらしい。
というのもどうやらあの日以来ヘルツに感情が芽生えたらしい。いや、明確に証拠がある訳ではなくただの主観だ。表情が豊かになったり、わざわざ効率的とは思えない方法を取ったり、スキンシップをしてきたり。心当たりがあるのはあの雷に打たれた時だけだ。不治の病が何故か治る事があるらしいが、まぁ、それと同じ部類だろうと思う事にした。
最近、週末は星を見にヘルツが打たれた丘に行く。そういえばヘルツがあそこで5時間も何をしていたかというと、畑の近くに住み着いてる猫を避難させてるのに戸惑った。というしょーもない理由だった。個人的には感情があるヘルツは嬉しいので、結果的には良い出来事だと思う。
「恵介、丘行こー。」
「あぁ今行く。」
それはそうと遂にプロポーズをすることにした。
段階飛ばし過ぎでは、という考えが一瞬頭を過ったが、色々考えた結果付き合うイコール結婚という感じになるなら一発でスパーンと決める方がかっこいいだろうという結論に至った。それはそうとどこでするかという問題だが、こんな世紀末の世の中にムードもクソもないので、日常の中で急にプロポーズすることで驚きを誘おうという方向性に舵をきる事にした。
いつも使う何気無い階段の踊り場。
ふと立ち止まり、跪く。
「ヘルツ、いつも美味い飯作ってくれること、当たり前のように食卓を囲んでくれること、話せること、優しくしてくれること、出掛けられること、そばにいてくれること、全部が嬉しかった。これからもずっと一緒に居たい。」
「 結婚してくれますか? 」
「 うん、待ってた。 」
それから泣きながら、クソ美味い飯を食って、日が昇るまで駄弁った。人生で1番の幸せを感じたのっていつ?と聞かれたら多分今日だ。
幸せが壊れるのはいつも突然だ。
それから1週間程のこと、ふと朝散歩をしていた時にネズミに噛まれた。まずいと思い急いで血抜きしたが、その晩から熱が出た。
そう感染してしまったのだ。
病原菌とは強いものでもう新種が生まれたらしい。喉は痛いし、呼吸は苦しい。熱なんか上がる一方で、あぁ、死ぬなと思った。ヘルツは薬を作ってくれているようだが、それまで自分が持たないことは明白だ。
不治の病が何故か治るなんてことなかったな。
「ヘルツ。」
そっと声をかける。ヘルツは泣いていた。
「ありがとう、愛してる、だから……」
「コールドスリープして。」
食い込み気味にヘルツが言った。
「えっ。」
目から鱗の提案だ。
「恵介が眠っている間に絶対薬を完成させる。
だからお願い。眠って。」
ヘルツは歳を取らない。病気にもならない。こんな魅力的な話はない。
眠っていただろう。
もし、ヘルツがただのヒューマノイドだったのなら。今のヘルツを残して眠るのは余りにも酷い。
それならいっそ……。
「終わろうか。菌なんかに殺されるのは癪だもんな。」
そう言って、銃を手渡す。
「そうだ、最期はいつもの丘に行こう。あそこは星がよく見える。」
その日は晴れていて夜空には無数の星が瞬いていた。
そして地球上に人類は居なくなった。最後のヒューマノイドと共に。
君と僕 @Dzhsz
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