津波に呑まれた僕は、異世界で霊能者として生かされる
如月 架叶
プロローグ
「……待ってよっ!
その先は、本当に死ぬ道なのよっ!」
森へ続く小道へ踏み出そうとした男に、彼女は背中から必死にしがみついた。
「……あんたには、無理よ……」
震える声。
それでも男は、歩みを止めなかった。
「僕は――苦しんでいる人を、放っておけません」
彼はそう言って、彼女の手をそっとほどく。
「だから行きます。
それが、たとえ命を落とす道でも」
「ねえっ……!!
死んじゃうわよ……!!」
彼女の真っ赤な瞳から、涙がこぼれ落ちる。
男は立ち止まり、振り返った。
その目は、どこまでも優しく――そして、迷いがなかった。
「止めてくれて、ありがとうございます」
彼はそう言って、彼女の銀髪を撫でる。
「でもね。
人生には、どうしても逃げちゃいけない瞬間があるんです。
今が……その時なんですよ」
優しく微笑みながらそう言った。
まるで“すべてを悟りきった人間”のように。
「だったら……」
彼女は、ぐっと唇を噛みしめ、
次の瞬間、彼の手を強く握った。
「――あたしも行くわ。
あんたが死ぬ場所なら、あたしも一緒よ」
涙を浮かべたまま、
それでも彼女は、笑おうとした。
これから先も、彼の隣を歩き続けるために。
――だからどうか、
彼がこの世界で、優しく笑いながら生き続けられますように。
彼女は、心の底から、そう祈っていた。
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