第5話
目が覚めた時、全ては終わっていた。
焼け焦げた教会の床は、全て元に戻っており、周囲への延焼も無かったようだ、或いは奴が炎を消したのかも知れない。割れたステンドグラスも既に戻っており、教会内に先ほどまでの戦いの痕跡は何処にも残っていなかった。
ただ一つ。
祭壇の前に佇む黒い影と……
その足元に倒れているのは……
枯れ木のように干からびてしまった……
「……ミネス……」
ルナは、起き上がりながら言う。
ぎろり、と。
祭壇の前に佇む影を睨めつける。
「残念だったな」
その黒い影。
レンが言う。
「君はまた、何も守る事は出来なかった、そして私を出し抜く事もな」
「……黙りなさい」
ルナは立ち上がり、ふらふらとミネスの亡骸に近づいて行く。
黙ってミネスに近づき、その頭にそっと手を添えて身体を起こす。
「……ごめんなさい」
ルナは小さい声で言う。
ごめんなさい。
私のせいで……
私の、せいで……
ルナの口から、嗚咽が漏れる。
「その女からだ」
ちゃりん、と音がして、ルナのすぐ側に何かが落ちた。
「……これは……」
ルナは、小さく呟く。それは、ミネスが首からかけていたペンダントだった。どういう由来があるのかは解らないが、とても大切な物だという事は解る。
「……その女にとっては多分、大切な物なのだろう、お前にそれを託す意味は……」
「解ってるわ」
ルナは言う。
どんな物なのかは知らない。だけど。
とても大切な物であるという事は解る。自分の事を忘れないでほしい。そして……
必ず、自分の仇を……ルナは顔を上げ、レンを睨み付けながらゆっくりと……
ゆっくりと、首にペンダントを付ける。
「……私は、貴方を許さない」
ルナは告げた。レンは何も言わない。
「そういえばその女も、いつか必ず私は殺される、と言っていたよ、そしてそれをやるのは……」
「ええ」
ルナは立ち上がる。
「それで、どうする?」
レンは楽しそうに言う。
「お前の今回の計画は失敗したようだが? 今からでも……」
ルナは何も言わずに拳を振り上げる。
だが……
その手をブルブルと震わせながら、ルナは……
ゆっくりと、拳を下ろす。
「どうした? もう諦めるのか?」
くくく、と。レンが笑う。
「諦めないわよ」
ルナは鼻を鳴らした。
だがどうせ、拳で殴りつけようとも無駄だろう。こいつを滅ぼすには……
もっと他の方法を、考えねばならない。
くるりとレンに背中を向け、ルナは胸元のペンダントをもう一度握りしめた。
二人の少女と吸血鬼 @kain_aberu
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