Unleash Lab 〜原因不明の不調を診断します〜 生き霊編
@hachio_haru
プロローグ
風は花粉を含み、遠くへ運ぶために強まっている。
一昨日、寒さを追い払うように吹いたその勢いは、まだ残っていた。
春は、もうすぐそこまで来ている。
「暇だねー、ジーニー。
もうゲーム部屋も無くしちゃったしなあ……」
御門先生は椅子に深く腰掛けたまま、天井を見上げる。
「こうなったら、レントゲン室をゲーム部屋にしちゃおうかな。
一度も使ってないし……」
「御門先生。
花村先生は、きちんとお仕事をされていますよ。」
「えー?
小林さんがお茶しに来てるだけのようにしか見えないけどなあ。」
間を置かず、御門先生は続ける。
「あー、いっそのこと病院やめてさ、
花村Cafeとかにしちゃおうかなあ……」
「……以前からお伝えしている、オンライン診療の件ですが」
「あー、もー。
今はそれ、言わないでー」
その時、隣の部屋から
「今日もありがとうございました。
花村先生、さようなら。」
そう声がして、扉が閉まる。
小林さんが帰ったようだ。
二人とも歳は近く、ハーブティーを勉強中だ。
霊の影響で失った人間関係を、少しずつ組み直している点も似ている。
だからだろうか、お互いに新しい一歩を踏み出そうと背中を押し合っているようだ。
「御門先生。
今日、小林さんと一緒にブレンドしてみたハーブティーです。
よかったら、飲んでみてください。」
差し出されたカップから、
牧草のようでいて、ほのかに甘い香りが、静かに広がっていく。
「今日は、どんな患者さんを思いながら淹れたの?」
「これまでは心の癒しを考えてきましたが、
今日は、身体の痛みに効くものって何だろうと思って。
マジョラムと、カモミールを使っています。」
「なるほど。
着眼点が、花村さんらしくていいね。」
御門先生は一口含み、少し間を置く。
「……うん、美味しい。
苦味も少なくて、力んだ身体が、すっと解けていくみたいだ。
優しいお茶だね。」
「良かった。ありがとうございます。」
やさしく、温かな空気が部屋に満ちる。
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