実家帰省テスト

ちびまるフォイ

家族ならわかって当然

「もう10年以上ぶりか」


久しぶりに戻った故郷は変わっていなかった。

変わらない風景に安心して家路につく。


「俺が急に帰ってきたら驚くだろうな」


サプライズを仕掛けるためこっそり実家に戻った。

驚いたのはむしろ自分だった。


「なっ、なんだこれ!?」


木造平屋のボロっちい実家はちゃんとあった。

玄関口に過剰な武装をほどこして。


一歩でも不法侵入しようものなら、

備え付けの自動小銃がハチの巣にしてくるだろう。


郵便ポストにはなにか答案用紙と貼り紙が見えた。


『 防犯のため武装しています。

  家族テストを満点で答えた人間のみ進めます 』


「まじかよ……」


問題用紙とマークシート。

さらにはペンまで備え付けているほど用意周到。


最新鋭の武装により玄関前には変なチラシも、

怪しい訪問販売も危険な強盗も近寄れない。

おかげでサプライズ帰省した家族すら入れない。


「ま、まあ家族テストなんて、息子の俺なら……げっ」


問題用紙にざっと目を通して背筋が冷えた。

最初の1問だけ確実にわかるが、その後はまったくわからない。



第2問 最近、お母さんが飼った猫の名前は?


第3問 お父さんが好きなドラマの名前は?


第4問 実家の階段は何段?



実家の構造を把握するのはもちろん、

現在の実家のニュースやトピックも必要となる。


気恥ずかしさから家族との連絡を取っていなかった自分にとって

この家族テストは宇宙の真理を解き明かすより難しい。


「くっそ、全然わかんないぞ。最初の1問以外おてあげだ」


輪郭があいまいな実家の記憶を引っ張り出し、

なんとかマークシートを埋めてみるも自信は無い。


うんうん頭を悩ませていたときだった。


「……お兄ちゃん、なにやってるの?」


「い、妹! 良いところに!!」


キャリーケースをゴロゴロならせて妹が帰っていた。

妹は頻繁に実家とも連絡を取り合っている。

自分よりも実家事情に詳しいはずだ。


「……というわけで、最初の1問だけ解けたら

 あとはからっきしわからないんだ。力を貸してくれ」


「いいよ。それじゃ2問目以降を見せて」


「これなんだ。どれも難しくて……」


「はあ? こんなの簡単じゃん」


妹はまるでそこに答えが書かれているかのように

なんの迷いもなくスラスラと答えを埋めていく。


「なんでこんなのわからないの?」


「じ、実家事情に疎くて……」


「そのくせ、サプライズで帰省したら喜んでもらいたいの?」


「い、いいじゃないか! 別に!」


「はい解けたよ。これでいいでしょ?」


「すっ! すごい! 合ってるかどうかわからないけど!」


「でもこのテストさ、49問までなんだよね」


「それが?」


「なんか半端じゃない? 50問にすればいいのに」


「たしかに……」


違和感を感じつつも見落としがないことを確認し

解答用紙を郵便ポストに投函した。


機械が採点する音が聞こえる。


『49問、全問正解デス』


「やったぁ!」


『50問目の挑戦権を与えマス』


「へっ?」


不意をつかれた。

50問目は49問突破した人向けの第2回戦だった。


備え付けのトレイから3種類のカレーライスが出される。


『実家のカレーを当てなさい』


皿に盛られたカレーに見分けはつかない。

どれが実家の手製カレーなのか。


妹と協力してカレーを食べ比べてみる。

しかしお互いに顔を合わせた。


「お兄ちゃん、わかる?」


「……いや全然」


実家のカレーは特別な味付けをしているわけじゃない。

市販のカレーより劇的に美味しいというわけでもない。


ルーの作り方をきちんと守った量産型のカレー。

取り立てた印象がないことが、今回の問題をより難しくしている。


「俺は……Aのカレーだと思うんだけど……」


「ええ? Cじゃない?」


「Cは無いだろ!?」


「Aもありえないよ!」


「なんかそう言われるとBも怪しくなってきた」


あれほど実家テストを難なく突破した妹ですら

最後の問題を前にまるで答えを出せなくなってしまう。


似たりよったりの味覚をもつ二人では答えにたどり着かない。

一向に答えがまとまらないまま制限時間が迫る。


『回答締め切りデス。5、4、3、2、1……』


「ええいもうわからん!! Aだ! Aのカレーだ!!」


『正解はーー』


ごくり、と生唾を飲み込んだ。




『正解は B デス。残念でしたね、不法侵入者』



「そんな!」

「うそぉ!?」


実家テストは最後の最後でつまづいた。

なんのために飛行機に乗ってここまできたのか。


「お兄ちゃん何やってるのよ!」


「お前だってCのカレーだって言っただろう!?」


「Bも怪しいって言ったじゃん!」


「知らないよ!」


「もうどうするの!? これじゃ家に入れない!!」


家の外で途方にくれた。

再テストもできないので帰るしか無いのか。


「はあ……もう最悪だよ。お兄ちゃんがもっと頻繁に帰省してれば」


「お前だってそうだろ。まあ今回はだいぶ問題解いてもらったけど」


「ちなみに、さ。お兄ちゃんがわかった1問目ってどんな問題?」


「ああこれさ。これだけは合ってる自信ある」


問題用紙の最初の問題を妹に見せた。




第1問 実家の鍵のありかは?




「これだけ覚えていたんだ。忘れないもんだな」


得意げな兄を妹はひっぱたいた。

その後、植木鉢の裏から鍵を使って家に帰った

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