だるまさんはころばされた

霜桜 雪奈

だるまさんはころばされた

 私の越してきた町には、不思議な遊びがあった。


 それは、『だるまさんはころばされた』という名前で呼ばれていた。

 最初は『だるまさんがころんだ』と聞き間違えたのかと思っていたが、どうもそうではないらしい。


 『だるまさんはころばされた』という遊びに、鬼は存在しない。


 その代わりに、一枚の紙を使う。紙の種類はでも良い。ノートの切れ端だとか、授業で使ったプリントだとか。

 紙には棒人間のような模様を描いて、地面に置く。

 子供たちは、その紙を取り囲むように走り回ったりする。

 しばらくして、一人が、「あ、だるまさんだ!」と言うことで子供たちは動きを止める。

 「いなくなった」の一言で、子供たちはまた動き始める。

 この間に動いてしまった人は、輪から外れて以降遊びに参加しない。

 このやり取りを数回繰り返して、最後には残った子供たち全員で紙を破いて、この遊びは終わりになる。


 町の子たちは、「今日も『だるまさんはころばされた』やろう」って、日常の一部としてこの遊びをする。

 その様子を、他の大人たちは微笑ましそうに見守っているが、私はどうも純粋な気持ちで見ることはできなかった。

 どこか儀式的で、裏に何かがありそうな気がして、ただただ不気味だった。


 いつ頃からあるのか。


 なぜ受動的な言い回しなのか。


 「だるまさん」とは誰なのか。


 どうして、最後に紙を全員で破くのか。


 考えるほどに、疑問は増えていく。

 そして、自分が納得できるように点と点を結んでいく。

 民俗ホラーみたいな、贄だとか神様だとか。


 だが、ふと思った。


 これの意味を探るべきじゃないのではないか、と。


 意味を探れば、本当にこの遊びが儀式になってしまう。

 存在しないはずの何かを、この遊びを通して呼び出してしまうんじゃないか。


 名前をつけてしまった時点で、それは『なにか』じゃない。

 この世には、知らなくても良いことがある。


 だから、これは遊びなのだ。ただの、遊び。


 何の意味も、無いんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

だるまさんはころばされた 霜桜 雪奈 @Nix-0420

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画