渇き

perchin

渇き

 夢を見る。

 暗い路地。影が迫る。殴られる痛み。首を絞められる窒息感。

 絶叫して、目を覚ます。

 心臓が早鐘を打っている。寝巻きは汗で張り付いている。

 ひどく、喉が渇いている。

 僕は台所へ走り、水をあおる。生温かい水が、食道を通って胃に落ちる。

 ああ、生きている。僕は安堵し、また眠りにつく。

 夢を見る。

 同じ路地。同じ影。同じ痛み。

 叫んで目覚める。喉が渇いている。水を飲む。

 くる日も、くる日も。

 夢と現実の継ぎ目は、「喉の渇き」だけだった。

 また、夢を見る。

 影が迫る。首に手がかけられる。

 だが、今夜は違う。僕は抵抗した。

 殺される前に、殺してやる。

 僕は影を突き飛ばし、馬乗りになり、その首に指を食い込ませた。

 指先に伝わる肉の感触。骨がきしむ音。影が藻掻き、やがて動かなくなる。

 高揚感と共に、僕は目を開ける。

 天井が見える。いつもの寝室だ。

 横を見る。

 妻が、白目を剥いて冷たくなっていた。

 その首には、くっきりと指の跡が残っている。

 僕は自分の手を見つめた。

 不思議だ。

 今日はまったく、喉が渇いていない。

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渇き perchin @perchin

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