第3話

 不思議なことに、死んだという悲しみは沸かなかった。神とやらが取り除いてくれたのだろうか。


 なぜかこの世界のルールも街の地図も頭に入っている。まるでずっと住んでいた場所であるかのように。


 お金は最初に支度金のようなものがあり、あとは働いて得ることになっている。


 緩い世界なので、のんびりと働いてゆっくりとすごせるのはわかっていた。


 だが、誤算があった。

 私が来た翌日、街中の人が私の元を訪れた。


「なんの力もないって本当に?」

「なんかあったら俺が助けてやるよ」

「いえ、私が助けるわ」

 親切な人たちだった。


 だけど、私は困っていることなどないから、すべて断った。


 断るとすんなりと帰ってくれたけど、すぐに別の人が来て、困ったことはないかと聞きに来るのが、若干、うっとうしかった。


 みんな、助けたい願望が強すぎる。いい人たちなんだろうけどそれがネックだな、と思った。






 翌日、仕事を探そうと街に出たときだった。

 職安のようなところに行く途中で、私は石につまずいてころんだ。


「大丈夫か!?」

 近くにいた人が声をかけてくれる。


「大丈夫です」

 恥ずかしく苦笑いを浮かべながら立ち上がる。


 周囲の人たちが一斉に自分を注目していた。


「私が服をきれいにしてあげるわ」

「俺が傷を治してやるよ」

 一斉に取り囲まれた。


「だ、大丈夫です!」

 私は怖くなってとっさに逃げた。


「遠慮するなよ」

 なぜか追いかけてくる。


「なんで!?」

 私は逃げた。


 なぜか追いかけてくる人が増える。


「新しく来たあいつ、助けを拒んで逃げてるらしい」

「大丈夫なのか!?」

「おーい、怖がらなくていいよー!」


 みんな、心配して追ってくるみたいだけど、なおさら怖くて仕方ない。


 走って走って、森の中に逃げ込んだ。

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