聖地は屋上、世界は僕らの手の中に
南賀 赤井
プロローグ
予定調和への反逆
「またこれかよ」
荒崎は、配られたばかりの『進路希望調査票』を指先で弾いた。教室を充満する、湿った沈黙。先生の「将来を見据えて」という言葉が、まるで出来の悪いBGMのように鼓膜を滑っていく。
隣の席で、桑田がノートの端に無意味な幾何学模様を描き込みながら、小さく欠伸をした。
「予定調和って、お腹空かない?」
「同感。ここにある選択肢、全部ボツだな」
二人は目配せをすると、休み時間のチャイムと同時に、淀んだ空気の教室を抜け出した。向かう先は、立ち入り禁止の立て札がひっそりと倒れている、校舎の最上階だ。
吹き抜ける風と、不敵な笑み
重い鉄扉を押し開けると、そこにはすでに先客がいた。
不破がフェンスに背を預け、スマホで新しいリズムゲームを叩いている。その隣で、加賀美が水筒のキャップで優雅に(中身はただの麦茶だが)乾杯の仕草をしていた。
「おや、お揃いで。皆さんも『退屈』に追い出されましたか?」
田上が眼鏡のブリッジを押し上げ、面白そうに目を細める。
「退屈っていうか、外野がうるさくてさ」
不破が画面から目を離さず、けれど口元には挑発的な笑みを浮かべて言った。
「あいつら、勝手に俺たちの限界を決めたがるんだよね。ハイスコア出す前にゲームオーバーにしようとするっていうか」
「なら、書き換えるしかないだろ」
荒崎が屋上の縁に立ち、眼下に広がる街並みを見下ろした。
「ルールも、正解も、大人が用意したレールも。全部ひっくり返して、俺たちが王様(キング)になればいい」
Hands Up!
「それ、最高にワクワクしますね」
田上が立ち上がり、空に向かって片手を突き出した。
「教科書には載っていないやり方で、世界を驚かせてやりましょう」
桑田がギターケースから、使い古したピックを取り出す。
「じゃあ、まずはこの静かすぎる学校を、僕らの音で揺らすところから?」
四人の視線が交差する。
そこにあるのは、根拠のない自信と、有り余る情熱。
誰かに許可を求める必要なんてない。今、この瞬間、自分たちが「最高だ」と思える道を選び取る。それが彼らにとっての唯一の正解だった。
「準備はいいか? 誰も追いつけないスピードでいくぞ」
荒崎の声に呼応するように、四人の手が空へと伸びる。
その指先は、まだ見ぬ未来を、そして誰も見たことのない景色を、確かに掴み取ろうとしていた。
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