赤ずきんは洗濯中

星見守灯也(ほしみもとや)

赤ずきんは洗濯中

 女の子はおばあちゃんから赤いずきんをもらいました。

 その「ずきん」を気に入って、いつもつけていたので「赤ずきん」と呼ばれました。




「いやー! おばあちゃんのずきんじゃないといやー!」

「しかたないでしょ、そろそろ洗濯しないと……いいかげんにしなさい!」


 おかあさんは怒りました。それからカゴをひとつ渡します。


「ほら、おばあちゃんのところにおかしとブドウ酒を持っていって。寄り道しないでよ」

「はーい……」


 赤いずきんのない「赤ずきん」は、おばあちゃんのところに行くのにもらったずきんがないのはいやだなあと思いました。でも、いやいやしてもどうにもなりません。「赤ずきん」はずきんのかわりを探します。


「これがいいわ!」


 見つけたのはおかあさんの濃い深緑をしたショールです。それを頭にかぶってくるくる巻きつけました。赤いずきんより目立たない色だけど、きれいな緑です。「ニンジャみたいね」。これならいいかと思いました。


「行ってきまーす」


 おかあさんに見つからないように、「赤ずきん」は森のなかのおばあちゃん家に向かいました。




 さて、森には空腹のオオカミがいました。食べられるものを探しています。柔らかい肉の子どもがいいなあと思っていました。


「くんくん……なにかいそうだなあ……」


 けれどもオオカミは目が悪かったのです。深緑のショールは森に溶け込んでしまって、オオカミはちっとも気づきません。「赤ずきん」のにおいに近づきましたが、はたしてどこにいるんだろうと首をかしげました。


 一方の「赤ずきん」は抜き足差し足、木の影に隠れながら森を行きます。


「わたしはニンジャ、わたしはニンジャ……」


 ガサッ!


 音がしてオオカミはそちらを見ました。そこか。しかし、「赤ずきん」は花を見つけてしゃがんだところでした。そのまま花を摘み始めて動かずにいました。オオカミは気のせいだったと思いました。腹が減りすぎておかしくなったのかもしれないと。


 花を摘んで「赤ずきん」は立ち上がりました。オオカミは何かが動いたのを見て、やっぱりなにかいると思いました。でも、「赤ずきん」はそのまま動きません。忍法です。木のふりをしているのです。オオカミは風で木が揺れたのだと思いました。そしてとうとう、そこから立ち去ってしまいました。




 そうして「赤ずきん」はおばあちゃん家につきました。


「おばあちゃん、ごめんなさい。もらった赤いずきん、洗濯しているの」

「いいのよ。あなたが無事ならね」


 おばあちゃんとおかしを食べて、「赤ずきん」はおつかいしてよかったと思いました。




 そして「赤ずきん」はなにごともなく自分の家へと帰ってきました。

 狩人が通りかかって言いました。


「いつものずきんはどうしたんだい?」

「赤ずきんは洗濯中よ」

「そうか、赤ずきんのほうが目立っていいな」

「わたしも赤いほうがすき」


 そう言って「赤ずきん」は深緑のショールを外しました。おかあさんに見つかる前に返さないといけません。


「でも、ニンジャごっこも楽しかったわよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

赤ずきんは洗濯中 星見守灯也(ほしみもとや) @hoshimi_motoya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ