誇り高き踏み台になろう!!
サケ/坂石遊作
第1話 踏み台キャラ
踏み台キャラをご存知だろうか?
ニュアンスは噛ませ犬とか悪役に近い。要するに、主人公がステップアップする際に蹴落とされるポジションの人間である。
そんな踏み台キャラに転生して、早数年。
遂に、俺はその役目を果たそうとしていた。
「レイジ……貴様如きが俺に勝てるはずないだろう?」
ありったけの蔑みを込めて、俺は嘲笑する。
「まだだ……!! まだ俺は、負けてない……ッ!!」
泥と血に塗れて這いつくばる少年が、俺を真っ直ぐ睨んだ。
燃えるような赤髪に、不屈の光を灯した瞳。彼こそがこの世界を救済する、未来の英雄――レイジ=ヴォルフだ。
ボロボロに叩きのめしてやったというのに、レイジは再び立ち上がって剣を構える。
ゾワリ、と全身の肌が粟立った。
本能が警鐘を鳴らしている。この男が今から発揮する底力に。
…………。
………………。
……………………。
あーーーーーーーーーー!!!!!!
長かった!!!!!!!
本当に長かった!!!!!
そうか……やっと俺を倒してくれるか!!
いいぞ!! かかってこい!! 派手に散る準備はとっくに済んでいる!!
立ち上がれ英雄。怒りに燃えて、俺を睨みつけろ。
そして、俺という踏み台を乗り越えて覚醒しろ。
このクロード=フォン=アインハルト。
一世一代の踏み台人生、これにて終幕だ。
……というかもう限界だ。早く俺を楽にしてくれ。
憎まれ役を務めるのも大変なんだ。こちとら中身は善良な地球人。悪を演じる度に良心の呵責が生まれる。
なあ、レイジ。
とっとと俺を踏み台にして、この世界をハッピーエンドに導いてくれよ。
心優しいお前は、なんだかんだ俺を殺さない……殺さないよな?
この後、俺は田舎でのんびり隠居生活を楽しむんだ。もう二度と表舞台には出ないと約束するから殺すのはやめてね。
レイジが剣を掲げた。すると、剣が聖なる光を放つ。
俺を断罪する光だ。美しくて、尊い。痛いのは好きじゃないが、この光に裁かれるなら悪くない。そう思わせてくれる慈悲の剣だった。
「待ってください、レイジ!!」
その時、甲高い声が響いた。
一人の少女が俺たちを見ていた。艶やかな銀髪に、涙で濡れたアメジストの瞳。俺が婚約破棄してこっぴどく振ったはずの、公爵令嬢セレスティアだ。
「クロード様は悪くありません!!」
は?
何言ってるんだ、コイツ?
「クロード様がこんな酷いことをなさるはずがありません! そうですよね、クロード様!! これは何かの間違いなんですよね!?」
セレスティアは俺を見つめながらそう言った。
困惑のあまり口を動かせずにいると、今度は金髪の少女が俺たちの前に現れる。
第二王女、アイリーンだ。
「そうよ!! クロードが、理由もなく人を傷つけるはずないわ!!」
おい。
「アンタは口が悪くて態度も大きいけど、本当は……本当は、誰よりも優しい人じゃない!!」
おい!!!!
やめろ!! 邪魔するな!!
もうちょっと自分の発言力を自覚しろ!!
くそっ……なんでこうなる?
コイツら、余計な茶々を入れやがって……!!
顔を引き攣らせないように必死でポーカーフェイスを保つ。表情を操ることだけは、ここ数年の努力で達人の域に達していた。だが流石に今ばかりはそれも崩れそうだ。
『はははっ』
俺の脳内に、楽しそうな男の笑い声が響く。
俺が手にしている一振りの剣が、語りかけてきた。
『彼女たちは理解しているようだな。真の英雄が誰なのかを』
黙れ魔剣め。
『私は聖剣だ!!』
お前みたいなどす黒い聖剣がいるか。
あーもう……面倒臭い。
俺はただ、踏み台として華々しく散りたかっただけなのに。
「クロードォォォォ!!」
レイジが一瞬で俺に肉薄し、剣を振り下ろす。
常人には捉えきれない速度。風圧だけで地面に亀裂が走る威力。だがその太刀筋は、俺の目には妙に遅く、精彩を欠いているように見えた。
だからさぁ……。
だからさぁ――!!
「なんでお前はまだ、そんなに弱いんだよォォ――ッ!!」
「ぐえっ」
反射的に振った手が音速を超えていた。
裏拳の要領で、手の甲がレイジの頬に直撃する。レイジは地面を激しく転がりながら、地平線の彼方へと消えていった。
派手に散ったのはレイジの方だった。
……はぁ。
思わず頭を抱える。
勘弁してくれ。お前はこの世界を唯一救える人間なんだ。
その程度の実力では、俺は踏まれてやれない。
やっぱりあれか。途中で割って入ってきたセレスティアとアイリーンが、レイジの闘志を鈍らせたのか。
一体どこで間違えたのかなぁ。
ぼんやりと、これまでのことを思い出す。
俺が、この世界で目を覚ましてから起こったことを……。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
作品へのフォローや★評価などで応援していただけると、とても嬉しいです!
執筆のモチベーションにも繋がりますので、よろしくお願いいたします。
次の更新予定
誇り高き踏み台になろう!! サケ/坂石遊作 @sakashu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。誇り高き踏み台になろう!!の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます