悪役令嬢は乱心なされた！

カーテンの隙間から射し込む眩い光で目が覚める。

「う、う～ん……」

「お嬢様、おはようございます」

「……誰？」

「お、お嬢様！？私です！フラウです！貴女の執事ですよ！」

「ああ！そうそう、フラウね。ご免なさい、私ったら何寝惚けてるのかしら！あはは……」

誰だコイツ……

何で私の部屋に不法侵入してるの？

イケメンが執事服を着て「おはようございます。お嬢様♪」って言えば、私みたいな女は勘違いするとでも思ってるのかしら？

お生憎様！私は自意識高い系女子よ！

自分の事は棚に上げてイケメンの顔面偏差値を語るのも苦にならないわ。

そんな私から見て、目の前のフラウの偏差値は98点！

惜しかったわね、残りの2点は寝起きの女の子の顔を覗き込んだ罰よ！！

すっぴん、それは呪いの言葉……

ちょっと頭の中を整理しよう。

昨日は確か……ベロベロに酔い潰れて記憶がない！

はい、終了。

もしかして夢？

夢なら何でも許されるわ！

目の前の超絶イケメンと……ぐへへ♪

「あら、フラウ何をしているの？早く私を抱き起こしなさい」

「えっ？」

「そして『お嬢様、お目覚めのお薬です♪』と言って私にキスするのが日課でしょう？」

「お嬢様、何を言って……」

「そして『もっとお薬が欲しいんですか？我儘なお嬢様にはお仕置きが必要ですね♪』と言いながらそのままベッドに……」

「お、お嬢様！朝食の準備は出来ていますので、食堂にお越しください！」

フラウは物凄い早口で言って、逃げるように去っていった。

なに？追いかけろと？そうね、あのウサギちゃんを追い詰めて美味しく頂いちゃおうかしら♪

「フラウ！待ちなさーーーい！」

「お嬢様が乱心なされた～～～！」

寝間着姿でフラウを追いかける。

廊下の端まで来てやっと追い詰めた。

「はぁ！はぁ！はぁ！何で逃げるの？」

「い、いや……」

フラウは腰を抜かして後ずさった。

頭を横に振って本気で怖がっている。

加虐心を煽るその表情、プライスレス！！

「それじゃあ、いっただきま～す♪」

「うわ～～～！」

私はルパンダイブで飛びかかった。

その時、不意に横のドアが開かれた。

「何をしておるのだ。アーシャ」

中から出てきた中年男と目が合った。

私は無惨にも顔から床に突っ込む。

「いたた……」

あれ？痛い？まさか夢じゃないの？

「朝から寝間着姿で何とはしたない事を……。貴族の令嬢らしく振る舞えといつもいつも……」

中年男の声は私には届いていなかった。

開かれた部屋の中の鏡に自分の姿が映る。

…………誰だコイツ？