シンデレラにはなりません
星見守灯也(ほしみもとや)
シンデレラにはなりません
あるところに三姉妹がいました。
家は裕福とは言えず、一番下の子とは血も繋がっていないのですが、とても仲のよい姉妹でした。
ただ、ある時を除いては。
「じゃーんけーん」
「まって。『最初はグー』からでしょ」
「……譲歩したげる」
「最初はグー、またまたグー、イカリヤチョースケあたまはパー、正義は勝つ、出さなきゃ負けよ、じゃんけん」
「ポン」
「ポン」
「ポン……あ、また小姉ちゃんの勝ち」
「おーほっほ、じゃんけん女王とは私のことよ。夕飯当番ゲーット!」
「ダセェ女王……。いくよ、ほら、じゃーんけーん」
「ポン」
「ポン」
「じゃあ、あたしが洗濯。チビがかまどの掃除ね」
「えー……またぁ? 灰だらけになっちゃうよ」
一番下のおチビさんはじゃんけんが弱いのです。
そんなわけで、毎日かまどの掃除をすることになってしまいます。
かまどはすぐに灰がたまり、おチビは灰だらけになってしまうのです。
灰をかぶったおチビを見て姉たちは笑います。
「あんた、まるでシンデレラね!」
「笑わないでよ」
「きっと大物になるわよー」
にこにこと頭の灰を払い落とされて、チビはほっぺを膨らませました。
「ああ、今日もかまど掃除かあ……」
冷たい水の洗濯も嫌だけど、かまどの掃除は大仕事です。
チビちゃんが灰だらけになりながら掃除をしていると、窓の外に鳥が止まりました。
白い小鳥でした。おチビはそれを死んだお母さんだと思いました。
「ねえ、お母さん。かまど拭いても灰を被らない方法ってないかなあ……」
(じゃんけんに勝つ方法を聞いた方がいいと思うのだけど)
「それはいいよ。洗濯はかまどより大変だし、小姉ちゃんのほうが料理上手だもの」
(そうねえ……)
小鳥は首をかしげてコツコツと枝を叩きます。
(この木の枝で手ボウキを作りなさい。それで掃除するのよ)
「はーい!」
さっそくチビは木の枝を拾って手ボウキを作ってみました。
「こんなので汚れずできるのかなあ……」
半信半疑でかまどをはくと、灰が飛び散りません。あっというまにきれいになりました。
「わあ! すごい! これならシンデラレラにならないわ!」
さて、その頃、王様は大きな宴会を開こうとしていました。
国中の美しい女の人を呼び寄せて、王子様の花嫁を見つけようというのです。
宴会の話を聞いた姉さん二人は色めきだちました。
「きっと美味しい料理がでるのよ!」
「絶対、ステキなお召し物だわ!」
そんななか、おチビはかまどの掃除です。
自分が汚れないうえ、かまどがどんどんピカピカになっていくのが面白くてしかたありません。
「ねえ、お父さん。他の家のかまども掃除していいかしら?」
「ん? いいんじゃないかな。みんな喜ぶと思うぞ」
「じゃあね、お隣さんに行ってくる!」
そんなわけで、おチビさんはまわりのすべてのかまどを掃除しました。
みんなピッカピカに掃除しつくしてしまったころ、領主様から声がかかります。
「かまど掃除が上手な娘と聞いた。うちのもやってみてくれないか」
おチビは喜んで出かけて行きました。
領主の城のかまどは大きく、そして数も多いのです。掃除のしがいがあります。
「王様のお城はもっと大きいかまどなのかしら!」
チビがひたいの汗を拭いた時、領主の姫様が聞きました。
「わたしの金の靴を見なかった? 王様の宴会にはいていきたいのだけど……どこにいったのかしら」
金の靴なんておチビは見ていません。かまどの灰しか。
このかまどは灰がたくさんあってなかなか落ちなくて……と、奥にきらりと光るものがありました。
「あ、これですか!?」
「ああ! わたしの靴よ。でも、灰だらけ……」
「大丈夫ですよ」
チビさんが手ボウキでさっとなでると、靴はまた金色に輝きはじめました。
びっくりとした姫様の顔も輝きました。
「すごいわ!」
そしておチビの手を取りました。
「わたしとお城の宴会に行きませんか? こんなすごい人がいるって知って欲しいのよ」
「お城のかまど、掃除してみたいです!」
三姉妹は領主の姫様について王様のお城に行きました。
姫様は王子様にみそめられ、上の姉さんは針子に、下の姉さんはコックに取り立てられました。
そしてあのチビさんはお城のかまどというかまどを掃除し終わり、旅の掃除屋になったのでした。
国中のかまどを磨きおわるまで、彼女の旅は続くでしょう。
シンデレラにはなりません 星見守灯也(ほしみもとや) @hoshimi_motoya
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