消滅者

カメラがとらえた。

鳥打帽をかぶった、クリーム色の上着を羽織った中年の男性。

彼は、町の雑踏の中で。一瞬にして。

消えた。

その様子が、どこからか動画投稿サイトに投稿された。

人々の反応は慣れたものだった。

「トリックだ」

「ねつ造に決まっている」

しかし、専門家は気味悪がった。

「CGや流行りのAI動画には見えない」

「編集された痕跡がどこにも見当たらない」

サイトに、撮影者を名乗る者が現れた。

「本当は、秘密にしておくつもりだったのですが……」

「以前から、『世界から消える人』の存在にうすうす感づいていました」

「私は、世界から痕跡を消す彼らを『消滅者』と呼んでいます」

「行方不明者の一定数が、消滅者であると思われます」

『消滅者』の話題は、インターネットの暇人たちの格好のネタになった。

鳥打帽をかぶった、クリーム色の上着を羽織った男が、撮影者と語っている。

「動画が出回ったときはどうなるかと思った。助かったよ」

「誰がリークしたかわかりませんが……。あの光学迷彩、今の時代で原理がバレたらまずいです」

「うっかり未来が変わって、本当に消滅するところだった」

「それにしても、誰がリークしたんでしょうね」

「さあ。平和な未来だと都合の悪い未来人だったりしてな」