零時野球リーグ Season2
ソラ
第1話「進路欄の空白」
進路希望調査の紙は、スコアブックより薄かった。星影ナインの行の一番右端に「来季の予定」という欄があって、朝から誰も埋めていない。記録員の僕は鉛筆を耳に挟んだまま、その空白を横目で見ていた。
今夜はリーグ登録外の練習試合だ。相手は港町クラブの若手組。浅間はブルペンでフォームを小さくし、里見はいつもより内寄りにミットを構えている。「本番より一球少なく終わらせよう」と、里見が軽く笑った。
一回、先頭打者は迷わずフルスイングしてきた。真ん中付近をファウルで二枚削られ、カウント2−2。里見は外にチェンジアップを示し、浅間はわずかに握りを変える。球はキャッチャーミットの手前で失速し、バットだけが前へ出た。スコアブックの一列目に、僕は小さな「K」を書き込む。
三回、二死一・三塁。送りバントのサインを読んだ里見は、あえて初球を外角高めに要求した。打者はバントの構えのまま見送り、ボール。次の球でサードランナーだけスタ動を切らせるエンドラン。三塁線ぎりぎりのゴロはファウルにならず、一点。「進路はこっちから決める」とベンチで里見がつぶやいた。
試合は3−1。点差よりも、浅間の球数が七十を越えなかったことに監督は満足していた。片付けのあと、進路希望調査の紙が回ってくる。浅間の欄はまだ空白だ。僕は自分の行に「野球関係」とだけ書いて迷い、最後に小さく付け足す——「プロ野球スコアラー志望」。鉛筆の跡が、進路欄の隅でやっと黒くなった。
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零時野球リーグ Season2 ソラ @sora3561891
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