第三話 現実と物語と

 喫茶店で水美みなみと出会った夜、涼太は再び「STORYME」を開いた。

 まだ続きは配信されていない。予定ではまだ二十四時間後、つまり明日の夜のはずだ。


 涼太は第一章を読み返した。


 主人公の亮が出会った女性――名前は、まだ明かされていなかった。ただ「窓際の女性」とだけ書かれている。

 でも、涼太には確信があった。次の章で、きっとその女性の名前が明かされる。


 そして、それは「水美」なのだろう。


 いや、違う。考えすぎだ。

 たまたまカフェで女性に話しかけられた。それだけのことだ。小説とは何の関係もない。


 でも……


 涼太の指は震えていた。なぜか、とても怖くなっていた。


 明日の夜が来るのが、恐ろしかった。




 翌日の日曜日は、何も手に着かなかった。AI小説の事が気になって、集中できないのだ。涼太は近所をジョギングしたり、部屋の掃除をなんとなくしたりして、一日を漫然と過ごした。


 そして、夜――スマートフォンを開くと、通知が届いていた。


『第二章が配信されました』


 涼太は深呼吸をしてから、タップした。

 読み込みが終わり、文章が表示される。



『「灰色の日々から 第二章 偶然という名の必然」

 亮は、あのカフェを再び訪れる。そして――窓際の女性と、再会する。

 彼女は自己紹介をする。

「私、水瀬水美っていいます」』



 涼太の手から、スマートフォンが滑り落ちそうになった。


 ――水美!


 同じ名前だ。

 偶然じゃない。これは、偶然じゃない。

 涼太は読み進めた。手が震えていた。


 物語の中で、亮と水美は少しずつ親しくなっていく。カフェで何度か会ううち、二人は自然と言葉を交わすようになる。水美は控えめだが、話していると不思議と心が落ち着く――そう亮は感じる。


 そして、第二章の終わり。


『水美が、真剣な表情で亮に言う。

「実は、あなたに話しておかなきゃいけないことがあるんです」』


 そこで、物語は終わっていた。


『次章は48時間後に配信されます』


 涼太は、長い間スマートフォンの画面を見つめていた。

 部屋の中に、自分の荒い息だけが響いている。


(これは、何なんだ……)


 明日、もし本当にあのカフェで水美に会ったら。もし彼女が「話したいことがある」と言ったら――


「そんなこと…でも……」


 どうすればいい?


 外は雨が降り始めていた。窓を叩く雨音が、やけに大きく聞こえる。

 涼太は眠れない夜を過ごした。そんな彼の枕元で、スマートフォンのカメラが静かに見つめていた。


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AI小説 ~あなただけの物語~ よし ひろし @dai_dai_kichi

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