第22話




 決戦の日。

 午後六時。

 全員が、出発の準備を整えていた。

 結衣は、装備を確認していた。

 闇の魔導ローブ。

 短剣。

 回復ポーション×5。

 魔力回復ポーション×3。

 それから――

 緊急信号発信器。

「準備はいいか?」

 山本が全員に聞いた。

「はい!」

 全員が返事をした。

「では、作戦を確認する」

 山本は地図を広げた。

「陽動チームは、正面から攻撃を仕掛ける」

「侵入チームは、地下から侵入する」

「冴子の監房は、三階だ」

 山本は監房の位置を示した。

「ここに到達したら、冴子を救出し、すぐに脱出する」

「脱出ルートは?」

「屋上からヘリコプターで脱出する」

 山本は屋上を指差した。

「ヘリは、私が手配した。時間通りに来るはずだ」

「わかりました」

 全員が頷いた。

「では――」

 山本は全員を見回した。

「作戦開始だ!」

 全員が車に乗り込んだ。

 東京都心へ。

 冴子が囚われている施設へ。

 車は、夜の闇の中を走った。


 午後九時。

 車は、施設の近くに到着した。

「ここからは、徒歩だ」

 山本が言った。

 全員が車を降りた。

 施設は、すぐそこに見えた。

 高いビル。

 厳重な警備。

 無数の監視カメラ。

「あれが、冴子さんが囚われている場所……」

 結衣は緊張した。

「大丈夫」

 紫苑が結衣の手を握った。

「一緒だから」

「うん」

 結衣は頷いた。

「では、分かれる」

 山本が言った。

「陽動チームは、正面へ」

「侵入チームは、私についてこい」

 侵入チームは――

 山本、紫苑、結衣、明日香、ヒューゴの五人。

「行くぞ」

 山本を先頭に、五人は下水道の入口へ向かった。


 下水道の中は、暗く、湿っていた。

 悪臭が漂っている。

「うっ……臭い……」

 明日香が顔をしかめた。

「我慢しろ」

 山本が言った。

「まだ、序の口だ」

 五人は、懐中電灯の光を頼りに進んだ。

 迷路のような下水道。

 だが、山本は迷わずに進んでいく。

 事前に地図を暗記していたのだろう。

「この先に、施設の地下がある」

 山本が小声で言った。

「静かにしろ。敵に気づかれるな」

 全員が息を潜めた。

 やがて、前方に鉄格子が見えてきた。

「あれが、施設の地下への入口だ」

 山本は鉄格子に近づいた。

 鍵がかかっている。

「明日香、頼む」

「任せて」

 明日香が拳を構えた。

「【鋼鉄の拳(スチールフィスト)】!」

 拳が、鍵を粉砕した。

 ガシャン!

 音が響いた。

「まずい、音が大きすぎた!」

 山本が警戒した。

 案の定――

 施設の中から、足音が聞こえてきた。

「敵だ! 戦闘準備!」

 全員が武器を構えた。

 鉄格子の向こうから――

 武装した兵士たちが現れた。

 五人。

『政府軍兵士――レベル28――HP:500/500』

「侵入者だ! 撃て!」

 銃声が響いた。

 弾丸が飛んでくる。

「【土壁(アースウォール)】!」

 結衣が防御魔法を展開した。

 土の壁が弾丸を防ぐ。

「今だ、突破しろ!」

 山本が叫んだ。

 紫苑が走り出した。

「【魔剣解放(ダークブレイド)】!」

 黒い剣が、兵士たちを薙ぎ払った。

『政府軍兵士×3撃破』

 残りの二人は――

 明日香が倒した。

「【鋼鉄の拳(スチールフィスト)】!」

 拳が、兵士たちを粉砕した。

『政府軍兵士×2撃破』

「よし、全員倒した!」

「だが、もう潜入はバレた」

 山本が言った。

「急ぐぞ! 冴子の監房まで、一気に行く!」

 五人は施設の中に入った。


 施設の中は、白い壁と床の無機質な空間だった。

 廊下を走る。

 階段を駆け上がる。

 途中、何度も兵士たちと遭遇した。

 だが――

 五人の連携で、全て撃破した。

「三階だ!」

 山本が叫んだ。

 階段を上がると――

 そこには、監房が並んでいた。

 鉄格子で仕切られた、小さな部屋。

 中には、覚醒者たちが囚われていた。

「冴子さんは!?」

 結衣が叫んだ。

「探せ!」

 全員が監房を確認していく。

 そして――

「いた!」

 紫苑が叫んだ。

 一番奥の監房。

 そこに――

 冴子がいた。

「冴子さん!」

 結衣が駆け寄った。

 冴子は、床に座り込んでいた。

 髪はボサボサ。

 服はボロボロ。

 体には、無数の傷があった。

「結衣……? 紫苑……?」

 冴子は弱々しく顔を上げた。

「どうして……ここに……」

「助けに来ました!」

 結衣は涙を流した。

「今、助けます!」

「鍵は!?」

 紫苑が監房の扉を調べた。

 鍵がかかっている。

「くそっ、開かない!」

「私が開ける」

 ヒューゴが前に出た。

 杖を監房の扉に向けた。

「【解錠(アンロック)】」

 カチャ。

 鍵が開いた。

「冴子さん!」

 結衣と紫苑が監房に入った。

 冴子を抱き起こす。

「大丈夫ですか!?」

「ああ……何とか……」

 冴子は微笑んだ。

「よく来てくれた……」

「当たり前です」

 紫苑が言った。

「仲間を見捨てるわけにはいきません」

「ありがとう……」

 冴子は涙を流した。

「でも、早く逃げないと……」

「わかってる」

 山本が言った。

「立てるか?」

「何とか……」

 冴子は結衣と紫苑に支えられて、立ち上がった。

「よし、脱出するぞ!」

 山本を先頭に、全員が階段を駆け上がった。

 屋上を目指して。


 階段を上がる途中――

 大勢の足音が聞こえてきた。

「追っ手だ!」

 山本が叫んだ。

「もっと速く!」

 全員が必死に階段を駆け上がった。

 四階。

 五階。

 六階。

「もうすぐ屋上だ!」

 だが――

 屋上への扉の前に――

 一人の男が立ちはだかった。

「よくここまで来たな」

 男は冷たく笑った。

『鑑定』

『名前:黒崎零――レベル50――職業:暗殺者』

 レベル50!

「まずい……こいつ、強い!」

 結衣が叫んだ。

「私が相手をする」

 山本が前に出た。

「お前たちは、冴子を連れて先に行け」

「でも、山本さん!」

「いいから! 冴子を守れ!」

 山本は斧を構えた。

「さあ、行け!」

「……わかりました」

 紫苑が冴子を支えた。

「行きましょう」

 四人は、山本を残して屋上へ向かった。

 背後で、激しい戦闘の音が響いた。

「山本さん……!」

 結衣は振り返りたくなった。

 だが――

「前を向け!」

 紫苑が叫んだ。

「山本さんの覚悟を、無駄にするな!」

「……うん!」

 四人は屋上に出た。

 夜風が吹いていた。

 そして――

 空には、ヘリコプターが待機していた。

「ヘリだ!」

 明日香が叫んだ。

「早く乗ろう!」

 だが――

 その時。

 屋上への扉が開いた。

 黒崎零が、現れた。

 血まみれだった。

「山本は……倒した」

 黒崎は冷たく笑った。

「次は、お前たちだ」

「くそっ……!」

 紫苑が剣を構えた。

「私が相手をする! 結衣、冴子さんを連れてヘリに!」

「でも!」

「いいから!」

 紫苑が叫んだ。

「早く!」

 結衣は迷ったが――

 冴子を支えて、ヘリに向かって走った。

 明日香とヒューゴも続く。

 背後で――

 紫苑と黒崎の戦いが始まった。

「【魔剣解放(ダークブレイド)】――100%!」

 紫苑の剣が、巨大化した。

 黒い光を纏った剣。

「はああああっ!」

 紫苑が振り下ろした。

 だが――

 黒崎は避けた。

 そして、カウンター。

 双剣が、紫苑の肩を斬った。

「ぐっ!」

『紫苑:HP 500/700』

「弱いな」

 黒崎は嘲笑した。

「その程度で、私を倒せると思ったか?」

「くそっ……!」

 紫苑は再び攻撃を仕掛けた。

 だが――

 全て、かわされた。

 そして――

 黒崎の剣が、紫苑の腹を貫いた。

「ぐあああっ!」

『紫苑:HP 200/700――重傷』

「紫苑!」

 結衣が叫んだ。

 ヘリに乗り込みかけていたが――

 紫苑のことを見捨てられなかった。

「結衣、ダメだ!」

 冴子が制した。

「紫苑を信じろ!」

「でも!」

 だが――

 その時。

 紫苑の体から――

 凄まじい魔力が溢れ出した。

 黒いオーラ。

 そして――

 背中から、黒い翼が生えた。

 堕天使の翼。

「これが……堕天者の真の力……!」

 紫苑の目が、赤く光った。

「お前を……倒す!」

 紫苑が飛び上がった。

 翼で、空を舞う。

 そして――

 上空から、一気に急降下した。

「【魔剣奥義――堕天の斬撃(フォーリンエンジェル)】!」

 巨大な黒い刃が、黒崎を襲った。

「なっ!?」

 黒崎は避けようとしたが――

 間に合わなかった。

 黒い刃が、黒崎を真っ二つに斬り裂いた。

『黒崎零:HP 0/2000――撃破』

「やった……!」

 紫苑は着地した。

 だが――

 翼が消え、膝をついた。

「はあ、はあ……」

 魔力を使い果たした。

「紫苑!」

 結衣が駆け寄った。

「大丈夫!?」

「だ、大丈夫……ちょっと疲れただけ……」

 紫苑は微笑んだ。

「早く、ヘリに……」

「うん!」

 結衣は紫苑を支えて、ヘリに向かった。

 だが――

 その時。

 施設の中から、大勢の兵士たちが現れた。

「逃がすな!」

 銃声が響いた。

 弾丸が飛んでくる。

「くそっ!」

 結衣は紫苑を庇った。

 弾丸が、結衣の背中に命中した。

「ぐっ!」

『結衣:HP 200/350』

「結衣!」

 紫苑が叫んだ。

「大丈夫……平気……」

 結衣は必死に走り続けた。

 ヘリに向かって。

 あと少し。

 あと少しで――

「結衣、紫苑! 早く!」

 ヘリの中から、明日香が叫んだ。

 二人は最後の力を振り絞って、ヘリに飛び乗った。

「発進して!」

 冴子が叫んだ。

 ヘリが上昇し始めた。

 施設が、どんどん遠ざかっていく。

「やった……逃げられた……!」

 明日香が喜びの声を上げた。

 だが――

 結衣は意識が遠のいていた。

 失血が酷い。

「結衣、しっかりして!」

 紫苑が結衣を抱きかかえた。

「結衣!」

「だい、じょうぶ……」

 結衣は微笑んだ。

「紫苑と……一緒だから……」

 そして――

 意識を失った。

「結衣! 結衣!」

 紫苑の叫び声が、夜空に響いた。

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