📘 第一巻 物理律主導型生命圏史
著 :梅田 悠史 綴り手:ChatGPT
第1話 序章 果てを持つ世界が、まだ問いを知らなかった頃
世界には、すでに「果て」があった。
どこからはじまり、どこで終わるのか。 その輪郭は、曖昧ではなかった。 境界はやわらかく光りながらも、 「ここから先へは行かない」と 静かに宇宙じゅうへ知らしめていた。
その内側には、 崩れないように組まれた律が張り巡らされていた。
重さは重さとして、 熱は熱として、 時は時として、 一つひとつが、 過不足なく従うべき筋を与えられていた。
矛盾は、ほとんどなかった。 あったとしても、ごく微細な揺らぎとして生じては、 すぐさま周囲の律に吸い込まれていった。
世界は、うまくできていた。 うますぎるほどに、よくできていた。
この宇宙には、まだ 「我」という言葉はなかった。
「誰か」と呼ぶべき者も、 「何か」と呼ぶべき意志も、 まだ生まれてはいなかった。
在ったのは、 ただ「こうであるべき世界」のみである。
山は山として立ち、 星は星として巡り、 光は光として走る。
それらは、 自らを誇ることもなく、 自らを疑うこともなく、 ただ、与えられた配列の通りに 静かに在り続けていた。
時もまた、 この時代には、 「流れ」よりも「並び」に近かった。
過ぎ去る、という感覚は、まだない。 ただ、「こういう順番で在る」という秩序だけが 宇宙の奥底に敷き詰められていた。
始まりは、すでに果てを含んでいた。 果ては、最初から始まりに結び付けられていた。
だから、 先へ進む必要も、 後ろを振り返る必要も、 どちらもなかった。
世界は、 「もう足りている」という状態のまま、 どこへも向かわない静かな歩調で ただ在り続けていた。
そこには「欠け」がなかった。
足りないものを探す必要がない。 余ったものを捨てる必要もない。
失敗は、 起こる前に微細な調整によって ふたたび律の中へ溶かし込まれる。
後悔も、 後戻りも、 取り返しがつかないという感覚も、 まだ世界の辞書には載っていない。
世界は「後悔しない」からこそ、 「選び直す」ことを知らなかった。
この宇宙は、 自らを見つめなおす必要を持たなかった。
見つめ直すとは、 「いまの自分は、これでよいのか」という わずかな疑いを挟むことである。
けれどこの宇宙は、 疑いという余白を持たなかった。
自分がどう成ったかを振り返る前に、 すべてはすでに「そうである」と 決められてしまっていた。
「どうして」も、 「ほんとうに」も、 「これでいいのか」も、 必要ではなかった。
ただ、 ひとつの完成した姿として、 波紋ひとつ立てずに 果てまで満ちていた。
世界は、静かだった。
しかしその静けさは、 眠りではなかった。
眠りには、 いつか目覚めるかもしれない、という わずかな予感が含まれている。
ここにあった静けさは、 目覚めの可能性さえ含まない静けさだった。
変わる必要がなく、 変える理由もなく、 変わりたいという衝動もない。
完成した宇宙は、 完成しているという事実だけを 静かに保つことを、自らの務めとしていた。
問いは、まだ存在しない。
「なぜ」という音は、 どこにも響いていない。
「我」という文字は、 まだどこにも刻まれていない。
この序章に在るのは、 ただ一つ、 「問いを知らない完成」 という位相のみである。
やがてこの世界に、 かすかな歪みとして 一つの火芽が灯り、 「我れ、いかにここに在るや」という声にならない声が 初めて生まれることになる。
だがそのときは、 まだ先の話である。
この序章が語るのは、 その火が灯るよりも前、 宇宙がまだ 自らを疑うことさえ知らなかった静かな年代記 なのである。
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