新神奈川開発プロジェクトの進行と懸念

壊れたガラスペン

第1話 新神奈川と裏神奈川と神奈川・エリアC:寄技官の記録

やどりきくん。本日よりエリアCの担当へのご就任おめでとう」


 ……これは皮肉だろうか。

 私は知っているのだ。エリアCとは神奈川に存在する異常空間だと。元々は超常技術の研究学園都市として運用される予定だったのだが、何かがあって一部閉鎖された。その何かは公表されていない。

 これは、超事調整委員会 事務総局 超事執行部 観測行動課の課長室での一幕だ。ご就任おめでとう。これが、おめでたいことではないのはわかってしまっている。


「ありがとうございます、課長。ぜひ、微力ながらお手伝いさせていだだきます」


 心にもないことを言ってしまった。まあ、そうなるだろう。エリアCだ。裏神奈川だとか、新神奈川だとか色々と呼ばれているあの地。下見に行ったら、私は無事に帰ってこれるだろうか。

 課長からは、辞令の紙とありがたいお言葉をいただき、課長室から退室した。できれば二度と訪れたくはない部屋だ。


「やあやあ、“やどりき技官”。新たなる場へと向かう途中かね。おめでたいことだ。私からもお祝いしないといけないなー」


 課長室を出た廊下にて、年齢・性別不明の白髪の悪魔と遭遇してしまった。こいつは、御溟みめい 里見さとみ。官庁街をフラフラと彷徨っている化け物だ。そう認識している。みんな言っている。出会ってから一切歳を取らないそうだ。


御溟みめい先輩……。先輩こそ、お早いお戻りですね。怪奇庁は、あの一件が終わったらポイっですか?」


 怪奇庁のあの一件とは改組の話だ。怪奇庁は元々総理府の外局に設置されていた。今や怪奇斎蔵いみくら院に改組され、本委員会の特別の機関に格下げされたのだ。まあ、格下げといいつつ、権限が増しているのは公然のわけだが。


「アレは私の可愛い子供たちだよ? 面倒は見るのさ。いい子に育ってくれると、なおいいがね」


 それよりも、と言いつつ悪魔は私の手にもつ辞令の紙に視線を移した。悪魔のような笑みを浮かべ……。いや、あれは悪魔そのものだった。逆に天使の微笑みと思っておこう。そんな笑みを浮かべた悪魔は、楽しそうに話を続けた。


「エリアCに行くのかい? あそこは、私でも近寄りたくもない場所だ。気をつけることだ。重工にもね」


「ええ、気をつけますよ。先輩のような存在に会わないようにね」


 では失礼。そう言って白髪の悪魔から離れた。エリアCよりもあの幼い外見の悪魔の方が怖く感じる。

 さて、これは異常なのだろうか。

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