リアル塾講師によるお仕事のぼやき

nco

第1話 今日も塾に出勤です

親から継いだ塾を、今日も開ける。

正直なところ、出勤前から少し身構えている。モンペやモンカスという言葉が頭をよぎるのは、もう習慣だ。


コロナ以降、客の質が落ちた──なんて言うと角が立つけれど、実感としては否定できない。

ネットが普及して、スマホが当たり前になって、オンラインが日常になった。その結果、生徒も保護者も、目に見えてストレス耐性が下がった。


教室に入ると、案の定だ。

生徒が立ち歩いている。

別の生徒は机の下でスマホを触っている。


注意する気力はもうない。説明するのも億劫だ。

しかも、そいつらの親の顔を、私は知っている。


「毎日それを続けて、一ヶ月後にどうなると思う?」


そう言いながら、黒板に向かって続ける。


「一日十分でいい。覚えてないことを集中して覚えろ。それだけで一ヶ月で五時間分の暗記になる」


たぶん、ピンときていない。

十分という時間の重さが、まだ分からない年齢だ。


それでも、その十分を**強制する**のが仕事だ。


「頼むから、十分でいいからやれー」


冷やかし半分の視線が返ってくる。

けれど、不思議なもので、「十分なら」と手を動かし始める。


こういう積み重ねでしか、信頼も学力も増えない。

派手なことは何もない。


今日も、入試本番に向けて、少しずつ積み上げていく。

それだけの一日だ。

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