落丁していた『魔導士ルルリェの手記』①


 お前が眠りに堕ちて、はや十日。

 身体が衰弱し始めている。目覚めさせるなら、今をもって他にない。


 大方のことは想像がつく。お前が眠りについたわけも、夢の中でどうしているのかも。

 いっそこのまま、眠らせてやった方が幸せなのではないだろうか。


 だが、わたしは……お前まで亡くして、生きていけるだろうか。

 亡国の至宝であるお前を、護り育てることがわたしの使命であると信じてきた。だがもはやそれだけでは、この数日の焦燥に説明が付けられないのだ。


 お前はわたしにとって、実の娘も同然。

 残酷かもしれないが、わたしはこれからお前の夢を壊しにいく。そしてわたしの宝を、この手に抱くのだ。


 万が一、夢に取り込まれ、帰ってこられなかった時のために、この手記を残そう。

 ああ、だが、帰ってこられた時には、必ず破棄しなければ……。お前に見られたらなんと言われるか……、たまったものではないからな。







〈終わり〉










========



私の作品傾向をご存知の方には、1ページ目の時点でこのオチは見えていただろうな……と、汗ダラダラで書いていました。

これも夢オチ……というやつなのか、やったらタブーか……? と胃をキリキリさせて公開しました。


手記のページ順を入れ替えて、ルルリェの心情を最後に明かすところに、自分なりの「こういうの好き」を詰めました


また本作は、拙作「闇魔女は六畳一間の平穏が欲しいだけ!』(https://kakuyomu.jp/works/16818792440390998185)の関連作です。

ifストーリーなので、あったかもしれないしなかったかもしれない……そこはお好きな解釈でお納めください。


かつてエフューだった少女が、ルルリェの死後とんでもないぐうたら娘になって、なんやかやで敵国でお姫様の身代わりを務めるのが「闇魔女」本編(ifなので)

よろしければ本編のほうも、お楽しみください。


ここまでお読みくださり、ありがとうございました!

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